この騒動はすぐに終わるのだろうか。

 政治ジャーナリストの角谷浩一さんは、「このままでは」と前置きした上で、「長期化する可能性がある」と指摘する。

 中国は処理水を「核汚染水」と呼び、処理水を海洋放出している日本の対応を繰り返し批判している。これに対して日本は「中国の批判には科学的根拠がない」などと反論する状況が続いている。

 角谷さんがこう解説する。

「中国が禁輸措置を発表したとき、野村哲郎・農林水産相は『想定外』などと言っていましたが、完全に見通しが甘かったですね。その後も日本は科学的な主張をし、中国は政治的な主張をしており、話がかみ合っていません。中国が行っているのは政治キャンペーンです。科学的な主張は大切ですが、それだけ繰り返していては状況は改善しないでしょう」

 政府は風評被害の対策として漁業者向けに800億円の基金を創設し、対応すると説明してきたが、農林水産省の統計によると、2022年の水産物の輸出総額は約3800億円で、輸出先の1位が中国、2位が香港。水産物輸出総額の42%を占めている。

アメリカ追従外交からの転換を

 角谷さんはこう見る。

「800億円の基金では焼け石に水でしょう。この状況が長引けば、中国は第二、第三の経済制裁を実施してくる可能性があります。今は国内でも『中国はけしからん』となっていますが、制裁が長期化して、水産業以外にも経済的な損失が広がれば、『岸田首相は何をしているのか』といった批判にもつながりかねません」

 では、どうすればいいのか。

「自らの正当性を主張するだけでは、中国も折れることはないでしょう。中国が今回反発したのは、処理水そのものの問題というよりも、アメリカの主張は受け入れる一方で、中国の主張は軽視する岸田外交の姿勢だと思います。アメリカに追従する外交ではなく、中国にも目配せをしていく日本独自の戦略が求められていると思います」

 9月には東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議や20カ国・地域(G20)首脳会議が控えている。岸田首相は、早期決着に向けた政治力・外交力を発揮することができるか。

(AERA dot.編集部・今西憲之、吉崎洋夫)

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今西憲之

今西憲之

大阪府生まれのジャーナリスト。大阪を拠点に週刊誌や月刊誌の取材を手がける。「週刊朝日」記者歴は30年以上。政治、社会などを中心にジャンルを問わず広くニュースを発信する。

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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