控訴も上告も棄却され、1978年にいったん無期懲役刑が確定する。だが、それでも桜井さんはへこたれなかった。再審請求が認められ、2011年に無罪を勝ち取ったのだ。

 無罪判決確定後、桜井さんは全国で冤罪に苦しむ仲間の支援活動を続けた。得意のノドを披露してCDも出し、カンパを集めた。2015年8月から1年半続けたラジオ番組「桜井昌司の言いたい放題!人生って何だ!!」でも、DJとして冤罪などについてしゃべりまくっていた。

 2015年8月には、筆者(今西)が司会をしていたラジオ番組に出演していただき、自慢の歌も披露してもらった。

「今西さん、こうやって歌える、大きな声で歌える、自由は本当にいい。今もA刑事や検察、裁判所を恨む、腹が立つ。けどね、刑務所に入ったおかげで人の善意を学んだ。だからたくさんの弁護士、支援者が集まってくれてその善意で無罪がとれた。今、袴田事件が同じことになっている。絶対に袴田さんは無罪だ」

 桜井さんが語っていた言葉が今もよみがえる。

筆者が司会を務めたラジオ番組に出演した時の桜井昌司さん

法治国家日本を蘇らせる闘いを貫く

 桜井さんは警察の捜査の違法性を訴え、国や県に損害賠償を求める訴訟も起こした。東京高裁判決は、警察と検察の取り調べについて違法性を認定。2021年にこちらも勝訴した。この訴訟の途中、2019年に直腸がんが発見された。

 近年は闘病生活が続き、直接会う機会は減っていた。それでも今年1月、誕生日のメッセージを送ると、2022年に完成した布川事件のドキュメンタリー映画「オレの記念日」(金聖雄監督)に触れ、

〈有り難うございます。かなり回復して来ましたので、今年は完治すると思います。今年は、もう私のドキュメンタリー映画が完成しまして、また面白い1年になりますが、法治国家日本を蘇らせる闘いを貫くつもりです〉

 と意欲満々だった。「闘い」半ばの死が悔やまれてならない。

 ご冥福をお祈りいたします。

(AERA dot.編集部・今西憲之)

布川事件を扱った映画「オレの記念日」に出演した桜井昌司さんと金聖雄監督/撮影=加藤夏子
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