フェトゥリデシが完成。左はフフ。フフにフォークが添えられているのは、外国人の私への心遣い。 アベポゾ・トーゴ 2013年/Avepozo,Togo 2013
フェトゥリデシが完成。左はフフ。フフにフォークが添えられているのは、外国人の私への心遣い。 アベポゾ・トーゴ 2013年/Avepozo,Togo 2013
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フフのオーダーが入ると、エファタの娘たちがフフをつきはじめる。息のあったつきっぷりに感心。 アベポゾ・トーゴ 2013年/Avepozo,Togo 2013
フフのオーダーが入ると、エファタの娘たちがフフをつきはじめる。息のあったつきっぷりに感心。 アベポゾ・トーゴ 2013年/Avepozo,Togo 2013
手前から、オクラ、唐辛子、トマト。ちなみに唐辛子は、ピーマンと呼ばれている。 パリメ・トーゴ 2013年/Kpalime,Togo 2013
手前から、オクラ、唐辛子、トマト。ちなみに唐辛子は、ピーマンと呼ばれている。 パリメ・トーゴ 2013年/Kpalime,Togo 2013

 広大なアフリカ大陸のうち25カ国を訪ねてきた、フリーランスライターで武蔵大学非常勤講師の岩崎有一さんが、なかなか伝えられることのないアフリカ諸国のなにげない日常と、アフリカの人々の声を、写真とともに綴ります。

【アフリカン・メドレー フォトギャラリー】

 今回は日本料理とアフリカ料理の意外な共通点にまつわるお話しです。

*  *  *

 日本に帰国してからも、思い出すと食べたくなるアフリカの味がある。

 フェトゥリデシは、トーゴの家庭料理だ。仲良くなったトーゴの友人宅を訪ねるたびに、魚介と野菜を煮込んだこの料理を振る舞ってくれた。食堂やレストランではあまり見かけられないこの料理は、トーゴのおふくろの味とも言えよう。日本で手に入りにくい材料もあるが、レシピは至ってシンプルだ。

 材料は、干した小魚、鯖の薫製、オクラ、玉葱、茄子、青唐辛子、赤パームオイル、塩少々。干した小魚を水で少し戻したら、それをすり鉢ですりつぶす。鯖の薫製は、食べやすい大きさにちぎり分ける。オクラは細かいみじん切りに。玉葱は薄い輪切りに、茄子は一口大に切る。材料が浸る程度の水を鍋にわかし、すりおろした小魚とオクラを加え、10分程度煮込む。小魚の風味が香りオクラの粘りがお湯全体にいきわたってきたところで、鯖の薫製と残りの野菜を投入。玉葱がくたくたに柔らかくなる程度に火が通ったら、塩で味を整え、赤パームオイルを回しかけたら、フェトゥリデシのできあがり。日本で作るならば、鯖の薫製がなくとも、焼いた鯖や「なまり節」でも近い味わいが出せるだろう。赤パームオイルは、日本ではあまり馴染みがなく手に入りにくいと思われるため、なければ割愛しても可。

 このフェトゥリデシに合わせていただくのは、フフ。フフとは、西アフリカから中部アフリカにかけて広い範囲で主食とされている、日本でいうと米にあたるもの。蒸かしたヤムイモ(日本でいう長芋や自然薯)を臼と杵でつき、状になったら完成。つきたてのフフを手でちぎり、フェトゥリデシを指先でフフに絡めていただく。トーゴをはじめ、アフリカ料理を食べる際は、フォークやスプーンを使わないことのほうが多い。

 全体に広がったオクラの粘り気と、赤パームオイルの風味はアフリカ料理独特のものだが、干した小魚と鯖の薫製から出た出汁(だし)の風味には、どこか親しみやすさも感じさせられる。干した小魚は煮干しの味に、鯖の薫製は鯖節の香りに極めて近い。和食にも通じる味わいのフェトゥリデシは、日本人の私にはありがたさ倍増の料理だ。

 干した小魚の代わりに沢ガニを砕いたものを使ったり、味にパンチを加えるために焼いた鶏肉を加えたりと、フェトゥリデシのバリエーションは様々だ。各家庭によって使用される材料は異なる。オクラではなく、茹でたモロヘイヤを刻んで入れることも多い。いずれのバリエーションにせよ、魚介の風味と野菜の粘り気を利かせることは、フェトゥリデシを作る上での欠かせないポイントとなっている。

 主食となるフフは、様々なスープ類やソース、焼き魚など、おかずに相当するものになら、基本的に何にでも添えられる。毎日食べるものだけあって、トーゴ人のフフへのこだわりは強く、いく通りものレシピがある。蒸かしたヤムイモをベースに、プランタン(食用バナナ)、タピオカの粉末、白トウモロコシの粉末、ヤムイモやタロイモの粉末などを、各店・各家庭で独自の配合で作るため、味わいはそれぞれ微妙に異なる。また、何と言ってもつきたてが柔らかく口当たりも滑らかなため、食べる直前につくのが最善の供し方となる。作り置きではなく、つきたてのフフが出てくる食堂は、やはり人気が高い。

 トーゴの定宿に荷を降ろし、日が傾き始めたころに散歩をしていると、各戸の中庭から、ドポン、ドポンとフフをつく音が聞こえてきた。煮炊きをするためにおこした炭火の匂いに混じって、魚を炊いた湯気の香りも、そこかしこから漂ってくる。夕飯時を知らせる音や匂いに触れることで、少し切なくて、あったかい気持ちになるのは、日本でもアフリカでも、そんなに変わらない。

 アフリカ各国のおふくろの味、またご紹介したい。

岩崎有一(いわさき・ゆういち)
1972年生まれ。大学在学中に、フランスから南アフリカまで陸路縦断の旅をした際、アフリカの多様さと懐の深さに感銘を受ける。卒業後、会社員を経てフリーランスに。2005年より武蔵大学社会学部メディア社会学科非常勤講師。

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