イスタンブールとソフィアに一週間の旅に行ってきました。必ず「仕事?」ってきかれますが、仕事ではありません。充電週間です。ずっと仕事をし続けていると、突然どこか異国の地の空気と音と匂いを浴びたくなる。というのが一つと、実は今、かみさんがブルガリアンボイスを熱心に稽古していて「私ソフィアに行ってくるけど、あんたも来る?」と言うので「ブルガリア行くのなら、近いから、まだ行ったことないイスタンブール経由しようよ」という私の提案を加味しての旅でした。
しかし年を取るとともに、眼前に大パノラマやとんでもなく古い世界遺産がいきなり現出してもあまり驚かなくなった。というか、依然として食べることとともに観光は旅の醍醐味の一つではあるけれど、なんだろう? 魂の揺すぶられポイントが若い頃と違ってきたというか、旅の一番の楽しみが「人と会ってその人を通して世界を見て感じること」に変化してきた気がする。
今回幸運なことにかみさんの友人の伝で、イナン・オネルさんというアンカラで通訳の仕事をされている方が、我々のガイドを一日してくださることになった。彼はアンカラ大学で日本文学を専攻し、96年に来日以来仕事の拠点を日本に決めて活躍されていたのだが、11年の震災を機に家族とともにトルコに戻られたという方で、日本文学、映画にもすごく造詣の深い方! そんなすばらしい、そして多忙な方がなぜ我々に一日あけてくださったかというと(しかも前日のトルコ全域停電の影響で、徹夜の仕事の後早朝にアンカラからイスタンブールまで飛行機でかけつけてくださった! トルコ語訳の谷川俊太郎の詩集『クレーの天使』を手土産に!!)「もちろんあなた方に聴いてもらいたいのが一番だけど、若い頃とてもお世話になったミュージシャンのムザフェル・オズミールさんに10年ぶりにぼくも会いたいんだ」とのこと。
というわけで旧市街観光もそこそこに、イスタンブールから船で1時間半、ブユカダ島というリゾートアイランドに住んでいる楽師になんの予備知識もなく会いに、演奏を聴きに行くことになった。こういう展開こそワクワクするぜい(^o^)
埠頭での10年ぶりの感動の再会を見届けた後、馬車でちょこっと島内をめぐるも、早速メインイベントのムザフェルさんの演奏を聴きに島のホテルのラウンジへ。リラックスした午後の暖かい日差しの中、いきなり至福の時間が訪れる(^o^) いつものことだが、音楽そのものを言葉で語るのはとてもじれったいので、今回は短いですが動画を添付します。1曲ごとに「これはどこ地方の伝統音楽で、そしてこんなエピソードのある歌」なんていう短い解説もつくが、そんなものはすぐに頭の片隅に追いやられてしまう。眼前に繰り広げられるすばらしいサズーの演奏と歌と数々のオリジナル楽器(馬の頭がついている楽器は馬頭琴ではありません。タッピングで演奏する彼のオリジナル楽器です)の紹介に、ラク(トルコのお酒)でほろ酔いの一同はどんどん盛り上がっていきます。奏者のムザフェルさんも最初は「日本からの客人、ちょっと緊張するなあ」みたいなことをつぶやきつつも水割りのラクをくいくいと何杯もいきながら、どんどん演奏も白熱していきます。時とともに朦朧としてしまい、なにを熱く語りあったか(私は日本語とでたらめ英語、イナンさんは達者な日本語とトルコ語、ムザフェルさんはトルコ語とほんの少しの英語)定かではないのですが、61年生まれという私と1歳しか違わないムザフェルさん。たとえ言葉の通じ方はもどかしくとも同時代を生きるミュージシャン同士、瞬時に不思議な連帯感が生まれてしまうから、やっぱり音楽っていいなあとしみじみ。
イスタンブール行きの船が出るということでしぶしぶ別れを告げなければならなかったが、こうやって人との交流というものは深めようと思えばいくらでもできそう。次の再会を夢みつつも、イスタンブールからソフィアに飛ぶのであった。[次回4/27(月)更新予定]
■ムザフェルさんの演奏(撮影/谷川賢作)
https://www.youtube.com/watch?v=2Fp_z4F8Y7g&feature=youtu.be