習近平氏(右)と新首相に就いた李強氏(写真:アフロ)
習近平氏(右)と新首相に就いた李強氏(写真:アフロ)
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 全人代を終え、3期目に入った習近平氏の新体制。習氏と距離があるとされる李克強氏が首相を退任し、かつての秘書や部下など腹心で固めた忠誠重視の「習1強」体制となった。中国はどこに向かうのか。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。

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 習近平氏の理想とは何か。その一つは間違いなく台湾の統一である。国家建設は毛沢東。経済成長はトウ(登におおざと)小平。その2人に比べて「レジェンドなき独裁者」である習近平氏にとって、残された目標は台湾しかない。

 習近平氏は今回の演説で「(台湾への)武力行使を絶対に放棄しない」というフレーズは使わなかった。これは台湾への配慮と見ることもできる。一方で、「外国勢力の干渉は許さない」と米国にくぎを刺すことも忘れなかった。

 李強氏も活動報告で台湾に「善意」を投げかける姿勢が目立った。台湾では、中国が応援する野党国民党が与党民進党と互角の情勢にあり、過剰に強硬に出るより、笑顔を振りまいた方が得策と考えてのことだろう。

 だが、これに対して、民進党の総統候補が確実視される副総統の頼清徳氏は15日、「中国の文武(経済と軍事の意味)両方による攻勢圧力は日増しに強まっており、台湾の生存は存亡の危機にある」と語り、中国の歩み寄りの姿勢は偽りに過ぎないとの見方を示した。中台の緊張は簡単には緩みそうにない。

 首相だった李克強氏は、習近平氏から嫌われて自身の経済政策「リコノミクス」を棚上げされ、退任後は無役となって表舞台から去る。記念撮影で習近平氏から目を背けて虚空を見つめ、首相として最後の演説では「蒼天有眼(天はすべてを見ている)」という「最後の忠告」とも取れる言葉を原稿に忍ばせた。

 習近平氏は確かに毛沢東以来の力を手にした。だが、田中角栄の時がそうだったように、秘書軍団はトップが強ければ力を発揮し、トップが倒れれば烏合(うごう)の衆となる。真の習近平時代を秘書軍団がどう演出するか、まずはお手並み拝見である。(ジャーナリスト・野嶋剛)

AERA 2023年3月27日号より抜粋