しかも、筋肉質の体力自慢の男性タレントなどと違って、見た目はそこまで強そうに見えないのも良い。小さい体で飄々とした雰囲気を放ちながら企画を淡々とこなしていく。その感じが新しくて面白い。

 やす子は自衛官として「上官の命令は絶対」という環境で育っているので、先輩芸人やテレビのスタッフが指示することには絶対服従するし、アドバイスもすぐに取り入れる。その柔軟な姿勢も現場では好感を持たれているのだろう。

 決めフレーズの「はいー」に代表されるように、やす子は普通のことを言っても面白い雰囲気をかもし出すことができる。話を振られたときにきちんと返しても面白いし、上手く返せず失敗しても面白い。どちらに転んでも笑いに持ち込むことができる。

 さらに、やす子のもう1つの魅力は、まだ進化の途中という感じがすることだ。彼女が単なる元自衛官のキャラ芸人であるのなら、そのキャラが飽きられたら終わりだ。しかし、やす子は未完の大器であり、まだ手の内をすべて明かしているわけではない。

 彼女にはクリエイター気質の一面があり、パソコンでオリジナルの楽曲を作ってリリースしている。配信ジャケットのイラストも自分で描いている。また、40代になったら獣医を目指したいという夢を語っていたこともあった。

 単なる「自衛隊芸人」や「女性ピン芸人」という枠には収まりきらない将来性を秘めているからこそ、人々はますます彼女から目を離せなくなる。やす子の「はいー」は人間の可能性を肯定する魔法の言葉なのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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