帝京・平原庸多
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 今年も最速153キロの湯田統宗(仙台育英)をはじめ、平野大地(専大松戸)、日當直喜(東海大菅生)ら、150キロ台の速球を投げる球児たちがプロのスカウトの注目を集めている。その一方で、過去には高校時代にトップクラスの球速を記録しながら、さまざまな事情からプロに行かなかった剛腕投手もいる。

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 その一人が、2008年のセンバツで、大会史上最速153キロをマークした宇治山田商の右腕・平生拓也だ。

 初戦(2回戦)の安房戦の3回1死、4番・鹿島勇太への初球、外角直球は、05年に柳ヶ浦・山口俊(元DeNA、巨人など)が記録した151キロを2キロ上回った。

「球が走っているとは思いましたが、(自己最速を5キロ更新)そんなに出るとはビックリです」と本人も目を丸くした。153キロは12年にも大阪桐蔭・藤浪晋太郎(現オリオールズ)がマークしたが、今でもセンバツの歴代最速記録だ。

 この試合で毎回の12三振を奪った平生は、3回戦の智弁和歌山戦でも延長11回を完投し、1対2で敗れたものの、2試合連続の12奪三振。NPB各球団はもとより、MLBからも注目された。

 だが、センバツ帰りの春の県大会で一塁を守ったときに腰痛を発症。長い間投げ込みも走り込みもできず、球速も120キロ台まで落ちた。

 それでも夏の県大会にギリギリ間に合い、準々決勝の桑名西戦では7回13奪三振と力投したが、実は3回戦で松阪を5安打7奪三振完封後、投げ込み不足の影響から右足内転筋に炎症を起こしていた。

 故障をチームメイトに告げず、その後も黙々と投げつづけたが、準決勝の海星戦では踏ん張りが利かず、被安打11の4失点と苦闘する。

 そして、西勇輝(現阪神)との投げ合いとなった決勝の菰野戦は、執拗なバント攻めにリズムを崩し、5回途中5失点で無念の降板。3季連続甲子園出場を逃した。

「こんなピッチングで無理かなと思うけど、もちろんプロには行きたい」と高校卒業後、西濃運輸でプレーを続けたが、右肘を痛め、4年で退部。高校時代に家で倒れた母を救護する救急車の隊員の姿に心を打たれた体験から、消防士に転身した。

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