元々カラオケが好きだったこともあり、会社の仲間と飲みに行った後はスナックでよく歌っていたが、定年退職後は誘う相手もいないので一人カラオケを楽しんでいたものの、何だか淋しいので近所のカラオケスナックに通うようになったら仲間ができ、そこが心地よい居場所になったという人もいる。このように、とくに組織された趣味の会でなくても、積極的に行動することで居場所ができることもある。

 だが、そうしたパターンよりは組織された趣味の会への参加の方が実際は多く、そこで趣味を同じくする仲間ができたというのが一般的だろう。いずれにしても、積極的に参加しない限り、新たな人間関係はつくれないし、居場所づくりはできない。

 ただし、集団活動にはややこしい人間関係がつきものである。

 いろんな性格の人がいて、それまでのキャリアもさまざまである。いきなりプライベートに土足で踏み込んでくるタイプの人に戸惑ったり、あまりに価値観の違う人に嫌悪感を抱いたりすることもあるだろう。マイペース過ぎる人に手を焼いたり、過剰にお節介な人への対応に頭を悩ますこともあるかもしれない。リーダーシップを取りたがる人たちが対立したり、目立ちたがりの人たちが自慢話で張り合ったり、派閥抗争みたいなものに巻き込まれそうになったりすることもあるかもしれない。

 そのようなときに、人間関係力のある人なら、無難にかわしたり、適度な距離感でかかわったり、うまく仲介したりできるだろう。でも、人間関係が上手でなく、気をつかいすぎてしまう人の場合、ストレス解消のためのものであるはずの趣味の活動が、かえってストレスになってしまうこともある。

 とくに元々団体行動が苦手な人には、自治会活動や趣味の活動などの集団活動は大きなストレスになりかねない。ストレス解消のために居場所をつくりたいと思って趣味のサークルに入ったのに、その集団への適応に気をつかいすぎてストレスになるというのでは本末転倒だ。いくら社会参加が推奨されているといっても、そこまで自分をまげて無理をすることはないだろう。

 若い頃からずっと団体行動が苦手だったのに、今さらそれに挑戦するとなれば、ストレスになるばかりである。それなら新しいつながりをつくろうとするより、学校時代とかのつながりをたどってみたらどうだろうか。会社時代のつながりよりは利害抜きに、役職関係などややこしいことも抜きにつきあえるのではないか。

 それもなかなか難しいなら、行きつけの喫茶店やスナック、居酒屋をつくるなど、ひとりで寛げる居場所をもつようにする方がストレスにならず、よっぽど気楽だろう。大事なのは、心地よい居場所をもつことである。

榎本博明 えのもと・ひろあき

 1955年東京都生まれ。心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。『「上から目線」の構造』(日経BPマーケティング)『〈自分らしさ〉って何だろう?』 (ちくまプリマー新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『自己肯定感という呪縛』(青春新書)など著書多数。