北朝鮮とポピュラーミュージック。両者の間には大きな隔たりがあるような印象を持たれる方も多いかもしれませんが、実は、北朝鮮はポップスが盛んな国なのだそうです。
北朝鮮のポップスをめぐり、在日コリアン2世でありジャーナリストとして活躍中の高英起さんと、株式界社フードコマ代表のカルロス矢吹さんによって対談方式で進んでいく本書『北朝鮮ポップスの世界』。
北朝鮮の誕生から、金日成時代、金正日時代、そして現在の金正恩時代という、それぞれの時代のなかで、どのような音楽が生まれてきたのか、実際の歌の歌詞も豊富に掲載されながら北朝鮮ポップスが分析されていきます。
北朝鮮というと、ともすると閉鎖的な国ととらえてしまいがちですが、その音楽は外国からの影響を大きく受けているのだといいます。
たとえば、北朝鮮で最もポピュラーな歌といえば、1947年に発表された「金日成将軍の歌」。非常に歌いやすいこともあり、広く人口に膾炙し、国歌よりも有名な楽曲なのだそうですが、この楽曲は、日本の軍歌の影響を色濃く残しているとのこと。そして、この「金日成将軍の歌」にはじまる北朝鮮のポップスを発展させたのは、映画に音楽にと、芸術家としてのセンスが抜群だったという金正日。
金正日は、70年代中盤から世界的に注目を浴びはじめた電子音楽にも着眼。YMOなどの楽曲の影響を受けながらも、そのまま外国の音楽を取り入れるのではなく、あくまで自国の現実と人民の好みに合うようにしなければならないと考え、北朝鮮の民衆に親しみやすいポップスを目指したのだといいます。
北朝鮮の音楽が民衆に受け入れられた背景には、こうした金正日の、外国の文化をしっかり朝鮮風にアレンジする姿勢があったのだと、高さんは指摘。北朝鮮ポップスの歴史を考えるうえで、いかに外部のものを朝鮮風に取り入れるかに試行錯誤してきたという一面は、注目すべきポイントのようです。
さらに近年では、ベースにスラップ奏法を多用し、間奏でタッピングを用いたギターソロの入った楽曲や、イントロにスティーヴィー・ワンダーの「サー・デューク」の影響が見受けられる楽曲、ファンクやゴスペルといった黒人音楽への傾倒が伺える楽曲など、多様な楽曲が次々と生まれているといいます。
本書で紹介される北朝鮮ポップスの数々は、YouTubeをはじめとするインターネット上の動画投稿サイトで聴くことができるとのこと。是非一度、拝聴してみてはいかがでしょうか。北朝鮮の音楽に関して持っていたイメージが、一変することになるかもしれません。