元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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3年ぶりの盆踊りが開催された。いやー本当にこの日が来てよかったと、うだる暑さの中でも心に爽やかな風を感じているアフロである。
というのはですね、やや長い経緯を説明しますと、私、そもそも盆踊りというものを一度も踊ったことがなく、死ぬ前にぜひ一度は踊っておきたいと勇気を出して地元の盆踊りサークルに入会。必死の稽古を重ねてようやくデビューを果たしたと思ったらまさかのコロナ……再開は一年、また一年と延び続け、そうこうするうちに踊りを教えてくださった大先輩たちも90歳! これはもうぼーっとしている時間などない、お稽古だけでも再開せねばと慣れぬ裏方を買って出て、しかしマジで地道な作業がダメすぎて皆様に迷惑をかけまくりながらも年頭から稽古再開にこぎ着け、せっかくならばと若い知人にも声をかけまくったら思いのほか「やってみたい!」という人がワラワラ集まり、その真剣な練習ぶりに大先輩たちもハッスルして手取り足取り教えてくださり……という経過を経ての祭り当日。
いやもうね、大先輩にまざって、真剣な表情でヤグラで踊りの見本を見せるまでに成長された若者たちの姿を見て、別にわたしゃ何もやっとらんがそれでも目頭が熱くなりましたよ。我が地元が誇る盆踊りの火は、コロナにもめげず確実に受け継がれたのである。
にしても、今年の盆踊りの盛り上がりっぷりはすごかった。コロナ前も盛り上がってはいたが、どちらかといえば「踊れる人が踊る」感じ(だから私も踊りを習ったのだ)。でも今年は踊れる人もそうでない人も誰もがどんどん輪に入ってヤグラは何重にも厚く囲まれ、最初は踊れなかった人も見よう見まねで繰り返し踊るうちに上手になり、一曲終わるたびに互いを称え全員で大拍手。この不思議な一体感はどこから来たのだろう。やはりコロナの影響だろうか。人と人とがリアルに出会い、互いを信じ、助け合い、何かを成し遂げること。それがいかに当たり前じゃない貴重な体験か。誰もがそのことを実感しているのだろうか。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2023年7月31日号