「いま、英語の自動翻訳はほぼネイティブレベルにあります」
そう話すのは、英語教育事業を行う「オフィス・ビー・アイ」代表の大島さくら子さんだ。
英語講師や通訳、英語学習書著者でもある大島さんは、仕事上、翻訳AI(人工知能)の「DeepL(ディープエル)」と「Google翻訳」、対話型生成AIの「ChatGPT」、ChatGPTの技術を応用した検索エンジン「Bing(ビング)」──の四つの自動翻訳ツールを、アシスタントのように使い分けている。大島さんは言う。
「どの自動翻訳も文法的には完璧です。ただし、意味を取り違えて誤訳したり、直訳すぎて失礼だったり、どれもデメリットはあります。そのため、デメリットを複数の自動翻訳で補いながら、最大限に活用しています」
いま大島さんが最もよく使っているのは「DeepL」だ。ドイツのDeepLが2017年に提供を始めた翻訳AIで、20年から日本語に対応するようになると一気に利用者が増えた。
DeepLに限らず、どの自動翻訳も基本的に、英語→日本語、日本語→英語を文字通りに訳す。そのため「スラング(俗語)」や「諺(ことわざ)」「ネット用語」など文化的背景知識を伴うものは苦手だという。
たとえば、「捨てる神あれば拾う神あり」という日本の諺。これは、見捨てられることがあっても助けてくれる人はいるので、「不運なことや困ったことがあっても、悲観することはない」という意味だ。しかし、これをGoogle翻訳で訳すと、「If there is a god who throws it away, there is a god who picks it up.」と直訳してくる。ChatGPTで翻訳しても、「One god throws away, another god picks up.」と、似たような英文になる。
そこで、対話型であるChatGPTに「これは日本語の諺ですが、この英訳も諺ですか?」と聞くと、瞬時に「おっしゃる通り、私の前回の回答は正確な諺の英訳ではありませんでした。お詫び申し上げます。正しい英語の諺の言い回しは次の通りです。“One man’s trash is another man’s treasure.”」と、まるで人間のように受け答えをし、正解を提示してきた。
「質問の仕方にもよりますが、このように疑問を投げかけることで、正しい答えを導き出すことができます」(大島さん)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2023年7月31日号より抜粋