でも、橋の基礎をつくるコンクリート打ちの担当もさせてもらい「でっかいものを造る」の手応えを感じていく。この2年弱がすべての原点となる。関西の橋やトンネル、地下鉄などの現場で施工管理ひと筋に歩んだ。

 民主党政権下で公共事業の削減という逆風が業界に吹いた2011年、前任の社長に呼ばれた。言われたのは「新事業を考えろ」だ。事前に、話が出たことはない。社長の目をみると、「きみに任せる」と言っていた。言葉がなくても、伝わる。『源流』が、顔を出す。

 選んだ新事業は、再生可能エネルギーの創出と販売だ。直前に、東日本大震災があった。エネルギー源の構成が大きく変わるのは、間違いない。自社も、使っているエネルギーを省エネ技術と創エネで相殺する理念を打ち出していた。政府は再生可能エネルギーの普及に全量買い取り制を整え、契約時に買い取り価格が固定する。これなら、採算をはじきやすい。翌年1月、創った電力を売り始めた。

 発電設備をつくるには、土木と建築の双方の技術が不可欠だが、風力発電施設は大規模な風車になるので土木分野に近い。一方、山梨県や茨城県で稼働させた木質バイオマス発電所は、木を燃やすプラントづくりが土木よりも建築に近い。いま、国内での太陽光、風力、木質バイオマスによる1日の発電量は平均140万キロワット時。1日平均消費電力からはじくと、約12万世帯を賄える量だ。

 2018年3月に社長就任。売上高の過半を占める建築部門から続いていたトップに、土木部門から選ばれた。リニア中央新幹線工事の受注を巡る談合問題に無縁だった点も一因、と報じられたが、社内では建築部門も指揮した経験に「建築・土木の双方に通じた新タイプのリーダー」と評された。

 受注競争からは、逃げられない。でも、談合やコンプライアンスに抵触する行為があれば、いくら受注しても意味がない。担当者としての受注意欲や出世欲、そうした欲と闘うことだ。

 これは「言葉にしない思い」というわけには、いかない。口を酸っぱくして言い続けよう、と社長就任時に決めた。もちろん、相手の目をみて言う。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2023年7月31日号