(※イメージ写真)
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 Appleの“Apple Watch”(アップルウオッチ)の発売が迫っているが、その大きな特徴はウェアラブルであるために日常的な体調管理や健康維持のデータを集め、活用できる点だ。Appleもそれを見越して、医療や健康に関する研究用に設計されたオープンソースのソフトウエアフレームワーク「Research Kit」を発表した。複数のサードパーティー(第三者)にアプリを開発してもらい、幅広い活用を促そうという狙いだ。

 この様なオープンソースによるアプリケーションの開発促進は、過去にもさまざまな形で行われてきた。例えば、「Twitter(ツイッター)」もその一例だ。ツイッターは登場当時、140文字のツイートを流通させる機能しかなかった。そこに、オープンソースAPI(機能を利用するための仕様)を開放することで、サードパーティーのアプリ開発を促進、どんどん多機能化していったのだ。それはユーザー数の拡大に大きく貢献したと言える。

 iPhoneも同じく、アプリの開発をサードパーティーに依存したことで、さまざまなアプリが開発され、ユーザー数を増やしてきた経緯がある。ここでは、ソーシャルメディアとサードパーティーの蜜月関係ができていたと言える。

 ところが、ツイッターは、突如としてサードパーティーの締め出しを始める。それまでサードパーティーが開発してきた機能を本体機能に取り込んだり、サードパーティーを買収したり、あるいは特定のアプリを排除するなどの動きをみせはじめたのだ。新たなアプリ開発においても、サードパーティーにさまざまな制約を課している。サードパーティーの力を借りて成長し、一定の成功を収めたら、今度はそれらを取り込み、自社で独占する方向に動く。iPhoneアプリでも同様の動きがある。よきパートナーだと思っていたら、頭からバリバリと食べられたようなものだ。

 ツイッターやiPhoneにしてみると、当初は社内の限られたリソースだけではサービスの拡充が難しいので、サードパーティーの力を借りる。そして、一定のユーザー数が確保でき、ウケるアプリの方向性が見えてきたら、自社サービス化して利益率を上げていく。ある意味、ビジネスの手法としては間違っていない。だが問題は、プラットフォーム自体をにぎっているツイッターやiPhoneにサードパーティーは、手が一切出せないことにある。つまり、サードパーティーには対抗手段がないのだ。

 アップルウオッチにおける「Research Kit」の開放、それに基づくサードパーティーでのアプリ開発促進も、こうした経緯を知ったうえで見るとニュアンスが異なってくる。使えるアプリをサードパーティーが開発したら、それは本体機能に吸収されてしまうのではないか、買収されるのではないか、あるいは最終的に市場から追い出されるのではないかという懸念を持つサードパーティーがいてもおかしくない。そんな目に遭うくらいなら、最初からアップルウオッチでのアプリ開発には乗りださないという考えもあり得るのだ。もちろん、「短期決戦で稼いだらそれでいい」「Appleに買収されるなら、それでOK」という考えもありだ。

 オープンソースは、多くのサードパーティーにチャンスをもたらしてくれる。その自由さは、IT業界の発展にも寄与してきた。だが、土台の部分を押さえている企業がある以上、その企業の思わく一つで、オープンソースが“罠”となってしまうケースがあるのだ。願わくば、アップルウオッチでそのようなことが起こらぬことを。

(ライター・里田実彦)