高知さんを「無知」などと片付けたくなる人もいるだろう。ただ、高知さんは「誰にでも信じてしまうリスクはあると思います」と話す。

 陰謀論にハマる人の傾向として識者らが指摘するのが、「孤立や劣等感を抱えていて『自分だけが知っている』という優越感を得たがる人」や、「パンデミックやテロ事件が起きた理由を知りたがる、自分が納得できる情報を探す」などの不安感に基づいた知識欲にかられた人だ。

 高知さんは自身を顧みる。

 物事に「正解」を求めてしまう性格。

 芸能界で名前が売れるようになると、周囲から特別扱いされることも増えて優越感を抱いたこともあった。だが、優越感を求める本当の理由は、自分の孤独と自信のなさの裏返しだとも気づいていた。他人の視線ばかりに意識が持っていかれ、ありのままの自分を失っていたのだと今は思う。

「笑わせたり、面白い話をしたりしないといけない。かっこつけなければいけない。それができるのがかしこいやつだし、芸能界で生き抜くには、その力が必要だと信じ込んでいました。でも、根っこにあるのは自信のなさと不安だったんです」

 ひがみやねたみも味わい、誰を信じていいか分からなくなっていったという。

「『都会の人間は信用しない』なんて強がってましたけどね。本音は誰よりも、信じて話せる人がほしかった」

■仲間がいること、「立ち位置」に戻ること

 陰謀論になぜハマったのか。明確な答えはない。ただ、自分の「心の隙間」をほどよく埋めてくれる存在だったのかもしれない、とは思う。

 今後も、大きな事件や災禍のたびに、陰謀論が飛び交う可能性がある。

 頭が冷静になった今、高知さんは、

「人それぞれ、置かれた環境が違うので、対策だとか解決策って簡単には見つからないと思います。ただ、自分を作らずに弱さをさらけ出せる仲間がいること。たとえケンカ腰になっても、お互いに指摘し合える仲間がいることは、冷静になるためにとても大切だと実感しています」

 と仲間の重要性を示す。その上で、

「ネットに情報があふれているなかで、色々な考え方があるんだなと認めつつも、最後は『では、自分はどうするか』。その立ち位置に戻ることが重要だと考えています」

 と語った。

(AERA dot.編集部・國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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