そう話す高知さんだが、米大統領選に関する「陰謀論」の動画をたまたま見つけると、そこからまったく抜け出せなくなった。ある動画を眺めていると、類似した内容の動画がどんどん出てくる。SNSでは関心がある情報ばかりに包まれる「フィルターバブル」が生じ、極端な考えに染まってしまうことがあるが、ネットに疎い高知さんは、その仕組みそのものを知らなかったのだ。

「俺だけがこの情報を見つけられたんだ。マスコミが報じない真実がここにある。日本も世界もやばい。見つけたことを自慢したいし、周りに知らせないといけない。そんな感情だけが頭の中を支配していました」

 今でこそ笑いながら陽気に振り返るが、当時は“洗脳”のような状態に陥っていた。ちょっとでも時間があればスマホを手にしてYouTubeやSNSで陰謀論の情報を検索。「内容がわかりやすくて、こんな話もあったのか! 届いちゃったよ俺だけに! と、どんどん深みにはまっていきました」

 のめり込んで半年が経ったころ、依存症からの回復を図る自助グループの集まりに参加した高知さんは、「すごい話があるんだよ」と陰謀論を唐突に、冗舌に語りだした。

 お互いに信頼し合い、何も包み隠さずに話すことができる仲間たち。その全員が即座に、どっと笑った。

「一瞬、ムカッとしましたよ。でも、関連動画の仕組みを説明されたとたんに恥ずかしさが襲ってきて……そうだったのかって」

■「誰にでも信じてしまうリスクがある」

 高知さんと一緒にYouTube動画を運営している元ギャンブル依存症当事者の田中紀子さん(公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表)も、その場にいた一人。米大統領選だけではなく、コロナワクチンについても陰謀論を口にしていた高知さんの姿をよく知っている。

「信頼している全員が一斉に笑ったから、高知さんもハッとしたのだと思います。一対一だったら反発して陰謀論を信じ続けていたかもしれません」(田中さん)

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