ミッツ・マングローブ
ミッツ・マングローブ

 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの連載が、「今週のお務め」とリニューアルして始まりました。6回目のテーマは「キャスター・檜山沙耶さんの『癒やし』」について。

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 ひと頃から「癒し」という概念が世界中で重宝されるようになりました。波の音に身を委ね、森緑の香りを吸い、ヨガで汗を流した後、エンヤを聴きながら座禅を組む。ついでにの肉球でもつつければ尚良し。そういった類の暮らしやレジャーにほとんど興味のない私にとって、「癒し」と聞いて思いつくのはこれぐらいです。

 日本ではバブルが弾け経済が傾いた90年代中盤ぐらいからでしょうか。平成のセクシー番長・飯島直子さんが、缶コーヒーCMで「男のやすらぎ」を提唱するや否や、「癒し系」なるジャンルが確立され、本上まなみさん・優香さん・安めぐみさんといった、ほんわかとした雰囲気を前面に押し出す女性タレントが次々と人気を博すようになりました。

「癒し系」と言っても、世の男性が彼女らに求めるのは、結局のところ「エロ」です。当時20代素人ゲイだった私の目には、所詮「ギラギラのミニスカート女を堕とすことに疲れた男の逃げ」としか映りませんでした。さらには「柔よく剛を制す」的な女性側のスタンスにも姑息さを感じ、以来ずっと「癒し系」を苦手として生きてきました。

 しかし私も気づけば48歳。「癒し系」に限らず、若い女性全般に対して疎ましさしかなかった時期を過ぎ、近頃は街で10代や20代の女子を見ると、微笑ましい気持ちを抱いていることすらあります。「いよいよ私も焼きが回ったな」と痛感する瞬間ではあるものの、それでもまだヨガや自然や猫の肉球には何の興味もありません。「癒し」なんてものは、人間の強欲さの極みだとすら思っています。

 そんな私が、最近どういうわけか癒されてしまう人がいるのです。「ウェザーニュース」という気象情報サイトのキャスターをしている檜山沙耶さんです。

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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