佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県出身。俳優、脚本家、映画監督。96年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げし、全公演で作・出演。以降、さまざまなジャンルのドラマ、映画に多数出演する。初のコラム集『心のおもらし』(朝日新聞出版、定価1870円)が発売中(撮影/写真映像部・東川哲也)
佐藤二朗(さとう・じろう)/1969年、愛知県出身。俳優、脚本家、映画監督。96年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げし、全公演で作・出演。以降、さまざまなジャンルのドラマ、映画に多数出演する。初のコラム集『心のおもらし』(朝日新聞出版、定価1870円)が発売中(撮影/写真映像部・東川哲也)
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 AERA dot.で5年続いている、佐藤二朗さんのコラム連載が本になった。掲載されている77本のコラムの中でも、「息子に、ただ、願う。」の回は特に反響が大きかったという。AERA 2023年7月24日号の記事を紹介する。

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*  *  *

佐藤二朗(以下、佐藤):昔お世話になった先輩役者の久松信美さんに再会した時、後輩だった僕の成功を自分ごとのように喜んでくれたことを、自分の息子に向けて「人の不幸をちゃんと悲しむ。人の幸せをちゃんと喜ぶ人になってほしい」と書いた一編です。

 実はこの話には前段があって。コラムに書く前にツイッターで「一流大学、一流企業に入れることはもちろん偉いことだけど、人の不幸をちゃんと悲しむ、人の幸せをちゃんと喜ぶほうが遥かに尊い」と酔っ払って書いてしまったんです。そうしたら凄まじい反響があったんです。大半は「いいこと書くじゃん」でしたが、一部に「どうして一流大学、企業と比べるんだ」という批判もありました。真意を伝えたいと改めてコラムに書いたんです。比較するべきではなかったこと、もちろん一流大学、企業に入るための努力は尊いこと、息子にはきれいごとだけじゃなく、競争に勝ち抜く強さも持ってほしい気持ちも込めて、書きました。

──読んでいて、込み上げてくるものがありました。神回とも呼ばれています。

佐藤:この話をツイッターに書いた頃、僕はそうは言ってもまだまだテレビや映画にちょっと出るようになったくらいの時期で。それでも久松さんは「二朗、この野郎~売れやがって」と、心からの笑顔で喜んでくれたんです。その久松さんの姿をまずは記しておきたかった。僕だったら絶対できない。人の成功、幸福を喜べない自分、人の不幸をちょっと喜んでしまう自分、誰にでも絶対あると思うんです。だからこそ久松さんの姿は僕の憧れであり、相当に難しいことではあるのだけど、希望を込めつつ、息子に、読者に伝えたかったんです。きれいごとかもしれないけれど、「当たり前のきれいごと」を大人が子どもにしっかり伝えることを、大人は簡単に諦めちゃいかんと思うんです。僕は「ひきこもり先生」(佐藤さん主演のNHKドラマ。ひきこもりだった主人公が中学校の先生になり不登校の生徒が集まるクラスを受け持ち奮闘するストーリー。2シーズン制作された)でも、「人として大事なきれいごと」を子どもに伝えるのを大人が諦めてどうするんだという思いで主人公を演じました。これからもそうした思いは持ち続けていくと思います。

佐藤二朗(撮影/写真映像部・東川哲也)
佐藤二朗(撮影/写真映像部・東川哲也)

■ご笑納いただければ

──書く仕事が増えたことで生活に影響はありましたか。

佐藤:書いてるうちに、考えがまとまることに気がつきました。こういった取材、インタビューも、同じことを言わなくてはいけないので疲れることは疲れるのですが、話しているうちに自分の考えが整理されるんです。それはコラムでも同じで、書いているうちに考えがまとまってくるんです。

 こうして一冊になってみると、「方向音痴」だとか「足が大きい」とか自分を切り売りするネタばかりなので、ケツの穴をみられている恥ずかしさがありますが(笑)。僕のコラムを書く上でのモットーでもあるのですが「ご笑納いただければ幸いです」。

(構成/編集部・工藤早春)

AERA 2023年7月24日号より抜粋

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