「直木賞の受賞は、0から1の仕事を生み出す効果よりも受賞前までやっていた仕事を何倍にもする効果の方が強いと感じる。そういった意味で直木賞は掛け算なんやろうなと思う」

 直木賞の受賞は、子供の頃からの夢だったという。

「野球少年が王・長嶋に憧れるように、僕も司馬遼太郎や池波正太郎に憧れていた。そういった人たちが持っていたのが直木賞。いつか取りたいと思っていましたね」

 失礼ながら、「仮に寿命が縮むとしても受賞したかったのでしょうか……」と記者が尋ねると、今村さんは「10年縮まったとしても取って良かった」と即答した。

「作家って仮に寿命を1年縮めてでも、書かなあかんっていう作品やテーマに出合うときがあるんです。作家の性分ですね。いま朝日新聞で連載している『人よ、花よ、』はその一つ。直木賞後の僕の方向性を決めるためにやらなあかんと思っている仕事です」

 そしてこう続けた。

「僕は子供の頃から夢見てた小説家っていう仕事をさせてもらって、憧れの直木賞ももらうことができた。仮に寿命が縮まるとしても、これからも書きたいものを書いてやりたいことをやり切る人生の方がいいと思ってます」

 今回で169回を数える両賞。19日に行われた選考会は、例年通り、築地の老舗料亭「新喜楽」で開かれた。慶賀ではあるが、記者は少しセンチメンタルな気持ちで賞の行方を見守った……。

(AERAdot.編集部・唐澤俊介)

【出典】
Shusaku Sasaki, Hirofumi Kurokawa, Fumio Ohtake,
Positive and negative effects of social status on longevity: Evidence from two literary prizes in Japan,
Journal of the Japanese and International Economies,
Volume 53,
2019,
https://doi.org/10.1016/j.jjie.2019.101037

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