169回の候補作品
169回の候補作品

 では、賞を受賞するか否かが寿命に影響を及ぼすのはなぜなのか。それを理解するにはまず、両賞について知る必要がある。

 どちらも『文藝春秋』を創刊した作家の菊池寛によって、1935年に創設された文学賞だ。毎年1月と7月に選考会が開かれ、1~2作が選ばれる(受賞作がない場合もある)。これまでの受賞者には、遠藤周作、石原慎太郎、大江健三郎(以上、芥川賞)、井伏鱒二、司馬遼太郎、浅田次郎、(同、直木賞)などがおり、日本を代表する作家が名を連ねる。


 同じ年に生まれ、同じ日に受賞作が発表される両賞はいわば双子のようなものだが、両者の大きな違いは、候補となる作品の選定基準にある。

 芥川賞は、文芸誌などに発表された新進作家による短編・中編の純文学作品を対象にしており、新人賞の意味合いが強い。一方、直木賞は、主に中堅作家による大衆文学作品の単行本に贈られることが多い。つまり、芥川賞の候補になる作家は、その時点では生活をしていく上での経済的な基盤がしっかりしていないことが多く、直木賞の候補は、既に実績があり、確固とした生活の基盤があることが多い。

 大竹氏はこう話す。

「芥川賞の受賞者の余命が候補者に比べて延びるのは、受賞により社会的地位が上昇して経済的に安定するからだと思われます。一方、直木賞の受賞者に逆の影響が出るのは、仕事量が増えすぎて、過労になり、それが不規則な生活や精神的なストレスにつながってしまうからではないでしょうか」

 実際に賞を受賞した作家はこの研究結果をどう見るのか。2021年下期に『塞王の楯』で直木賞を受賞した今村翔吾さんは、笑ながらこう話してくれた。

「(寿命が縮むと言われても)全然不思議に思わない。その通りやろなって納得できる」

 今村さん自身は、小説の仕事量自体に大きな変化はなかった(当時既に数年先まで決まっていたのだそう)が、テレビ出演や講演依頼などが受賞後に倍増したのだという。

次のページ
受賞は子供の頃からの夢