
俳優、司会者、コラムニスト、脚本家……たくさんの顔を持つ佐藤二朗さん。このたび、5年続くAERA dot.でのコラム連載が本になった。独特の個性が支持を集める希代のエンターテイナーに「書くこと」の魅力とやりがいについて聞いた。AERA 2023年7月24日号の記事を紹介する。
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──コラムに初挑戦とのことでしたが、佐藤さんならではの独特な視点によるエピソード描写とコラムの定石「締めの3行」が効いています。
佐藤二朗(以下、佐藤):そう言われると嬉しいですが、同時に驚いてしまいます。僕はそもそもコラムの定石どころか、コラムとはなんぞやということも分からずに書いているので。ただ連載当初からAERA dot.には、時事問題や社会現象に斬りこむコラムを書いている方は他にもいるだろうから「俺が勝負するのはそこではないな」と意識してきました。自由な立場で、縛られずに書きたいことを書くのが自分の役割だと思っています。ただ、書くからには、読み手に楽しんでいただけるよう「エンターテインメント」の視点を忘れないように心がけています。
■何も得られなくていい
──5年かけて書いてきたものが一冊の本にまとまると、また違った感慨があるのでは。
佐藤:コラムの掲載順は時系列に過去から現在に並んでいるのですが、改めて読み返してみると、連載開始当初は「ちゃんとしなきゃ」という思いがありました。それこそ「最後はちゃんと(話を)落とさなきゃ」とか、読んだ人が「何か得られるものがあったほうがいいんじゃないか」とか考えていたんです。でもある時点から「何も得られなくてもいいんじゃないか」と。それこそ「(読者に)ひと笑いしてもらえればいいか」くらいの感覚です。それが、一冊の本になったということでしょうか。
──共演者や俳優仲間とのエピソードがたくさん出てきます。
佐藤:「読みましたよ」と言ってくれる方もいますが……ただ、俳優さんのことを書くことについては非常に気を使っています。「芸能界の裏側を見せます」なんてことは全く考えていませんし、書いてもいません。そもそも許可が必要ですしね(笑)。名前を出すからには絶対に誰の損にもならないこと、みんなの「得」になる時にしか実名は挙げないと決めています。ちょっと恥ずかしいこと、笑いが起こるようなネタでも、読んだ人に、その俳優さんを好きになってもらえるようなことでなければ書きません。ただ人を褒めることって、実は非常にセンスが必要で難しいことなんですよね……。