薬局開店からの半世紀を振り返ると、こちらの勝手な思いを押しつけるのが最低。飲食店で献立を書いた紙を食卓に置き、店員に説明させるのも同じ独りよがりだ(撮影/狩野喜彦)
薬局開店からの半世紀を振り返ると、こちらの勝手な思いを押しつけるのが最低。飲食店で献立を書いた紙を食卓に置き、店員に説明させるのも同じ独りよがりだ(撮影/狩野喜彦)

 この日の午前、新座で薬局を開いたところにもいってみた。広島県御調町(現・尾道市)で生まれ、大阪経済大学を卒業、東京の製薬会社に就職して薬局担当の営業を5年余りやって、2人目の子どもが生まれる前に退職した。夫婦で薬屋を開くためで、71年6月に開店する。


 久しぶりだが、記憶がどんどん蘇る。「周辺に500世帯くらいあり、名前と家族構成、好みまで全部、覚えた。それで、新商品をみると、誰なら買うかもしれないと分かった」


■脱・安売り依存 三つの「価値」で一直線に実現


 安売り依存からの転進は、一直線だった。埼玉県で競り合っていた競争相手2社が97年に合併し、その経営者と「互いにいまの売り上げでは、社員を十分に食べさせていく給料を払えなくなる。でも、足してやれば、店をたくさんつくれるから、一緒にやろう」と合意した。


 2002年に合流し、提携が進んでいた流通大手イオンが使っていた「ウエルシア」のブランドに統一。ウエルは健康、シアは国の意味で、「健康な国にしていきたい」との思いに共感した。


 合併前の3社の経営路線は違っていたが、「安売りだけではダメ」では、すぐに一致。三つの「価値あるサービス」でも合意した。24時間営業、調剤の併設、カウンセリングの実施。2013年3月に持ち株会社ウエルシアホールディングスの会長に就き、それを推進する。合併時は3社合わせて80店足らず、売上高は計300億円。買収を重ね、2022年2月期に売上高を1兆円に乗せた。


『源流』再訪の結びに、東京・日本橋の交差点の角に設けた実験店にもいった。思い出の先に「いま」がある。「正直言って、3千近い店を持つ1兆円企業になるとは、思ってもいなかった。本気でやり通せば、やれることは多い、ということですね」と笑った。


 いま、四つ目の「価値あるサービス」に「地域への協力」を加えた。調剤に不可欠の薬剤師か登録販売者がいる店は、全国で2千を超える。この戦力が、在宅医療での治療に貢献する通称「在宅調剤」を展開する。


 静岡県島田市と埼玉県長瀞町、愛知県岡崎市では、生活用品を買う店がなくなった地域へ移動販売車を送り、商品を売るだけでなく、人々が「今度、これを持ってきてね」という品を次回に届けてもいる。生活や健康に関する御用聞きも含め、情報が移動販売車からウエルシアの薬剤師へつながり、自治体にもつながる仕組みを築いていく。


 地域に人々が集まる小さなコミュニティーを、成り立たせていきたい。『源流』からの流れは、かつて想像もしていなかったところへ、向かっている。(ジャーナリスト・街風隆雄)

AERA 2023年7月10日号