映画「翔んで埼玉」で登場する「埼玉ポーズ」を披露するはなわ(右)と石川良三市長。はなわは佐賀出身だけど「かすかべ親善大使」 「翔んで埼玉」主題歌歌う
映画「翔んで埼玉」で登場する「埼玉ポーズ」を披露するはなわ(右)と石川良三市長。はなわは佐賀出身だけど「かすかべ親善大使」 「翔んで埼玉」主題歌歌う

 その点、『翔んで埼玉』は異例の作品である。なぜなら、「埼玉県」という実在する地域を差別ギャグの対象にしているからだ。なぜこんなことが許されているのか。そして、当の埼玉県民さえ、この映画を見て心から笑い転げて、拍手喝采を送ったのはなぜなのか。

 たしかに、東京という日本一の大都会に隣接している埼玉が、実態以上に「田舎っぽいもの」の象徴として何かにつけてネタにされがちなのは事実である。しかし、そこには社会的に深刻な問題となるような差別はほとんど存在していない。だからこそ、コメディの題材にしやすいというところがある。

 実際に埼玉に住んでいる人も、どちらかというと「東京にはかなわない」と自虐的な考えを持っていることが多く、低く見られることにそれほど抵抗を持っていない。埼玉県民は埼玉をネタにされることに寛容である。

 また、実際のところ、埼玉県民の中には職場や学校が東京にあり、日常的に東京に通っているような人も多い。もっと言えば、東京には日本中から人が集まっていて、埼玉よりもはるかに田舎度数の高い地域から出てきている人もたくさんいる。そういう人にしてみると、そもそも自分の故郷より栄えていて東京にも近い埼玉という地域を馬鹿にするような感覚がない。

 埼玉は田舎と揶揄されることが多いように見えても、実際にはそこに深刻な対立や差別心は存在していない。埼玉は差別ネタの題材としてこの上なくふさわしいものだったのだ。

『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』の特報映像では、GACKT扮する麗が「琵琶湖の水を止める」というセリフを口にしている。「琵琶湖の水、止めたろか」というのは、滋賀県民が大阪府民に田舎ぶりを馬鹿にされたときの反論として定番のフレーズである。この作品でも、関西を舞台にまた新しい形の地方差別コメディを見せてくれそうだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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