東京証券取引所が、「株価純資産倍率(PBR)」1倍割れなど市場の評価が低い企業に改善を求めたこともあって、自社株買いを行う企業が増えている。自社株買いを発表する企業が例年多い5月は過去最高を更新した。今年はこれからも自社株買いの実施を決める企業がまだまだありそうだという。
自社株買いは、企業が発行した株式を市場から買い戻すことをいう。市場に流通する株式の数は減るので、その企業の利益水準は変わらなくても1株あたりの利益は増える。株価の上昇要因となるので、配当とともに株主還元策として位置づけられる。
東海東京調査センターによると、今年5月に自社株買いを発表した企業は220社に上り、その額は計3兆2596億円だった(決議金額ベース)。過去最高だった昨年5月の3兆1277億円を上回る。東海東京調査センター市場調査部の鈴木誠一チーフエクイティマーケットアナリストは言う。
「2023年は予想以上の景気の落ち込みや台湾有事などの想定外のリスクがない限り、実績ベースで前の年の9.6兆円を上回る10.5兆円前後に達すると予想しています」
その理由は主に3つあるという。
まず、東証の要請を受けて自社株買いを実施しようと考える企業はまだたくさんあると考えられるためだ。東証が改善を求める方針を明らかにしたのは1月。実際に上場企業に対応を求める通知を出したのは3月下旬だ。前出の鈴木さんは続ける。
「対応はまだ十分に進んでいないのではないか」
次に、上場企業が発表した今期の業績予想がこの先、上方修正される余地が大きいと考えられることが挙げられる。
「国内企業の業績予想は低めに見積もられることが多い。第1~2四半期の業績をみて、実際の売り上げや利益が予想を上回りそうだという見方が高まれば、自社株買いなどの還元姿勢もさらに高まる可能性があります」(同)