岸田文雄政権が退職金にかかる税金を増やそうとしている。大事な老後の蓄えが目減りしかねないとして、反発の声が強くなっている。
政府は、6月16日に閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)や、新しい資本主義の実行計画で、退職金にかかる制度を見直す方針を示した。
対象の一つが税金の仕組みだ。今の制度では、同じ会社に20年を超えて勤めると退職金を一時金としてもらった場合の負担は軽くなる。こうした仕組みが転職を妨げ、成長分野に人材が集まるのを妨げているといった指摘は以前からあった。
だが社会保険労務士で、社会保障制度や企業の福利厚生制度などに詳しい北村庄吾さんはこう批判する。
「会社員にとって、退職金は引退後の生活設計に欠かせない貴重な老後資金です。これまで確定拠出年金制度の拡充などを進めてきた政府の姿勢とも矛盾します。唐突な印象で、まるでダマシ打ち」
どういうことか。税金の仕組みについて、もう少し詳しくみていこう。
現在、退職金一時金にかかる税金(所得税)は「退職所得控除」と呼ぶ非課税になる額を差し引き、さらにその額を半分にした金額をもとに計算する。
この控除額は長く勤めた人ほど優遇される仕組みだ。勤続年数が20年までは1年ごとに控除額が40万円ずつ増えるのに対し、20年を超えると同70万円ずつ増える。
例えば、同じ会社で35年働き続け、2千万円の退職一時金をもらうケースをみてみよう。
控除額は、勤め始めてから最初の20年分は40万円をかけた800万円、さらに残りの15年分は70万円分をかけた1050万円で、計1850万円となる。
退職金2千万円から、この控除額1850万円を差し引いた150万円を、さらに半分にすると75万円だ。
所得税は、この75万円がベースとなって決まる(退職所得)。このケースでは、金額に応じて定められた所得税率5%をかけた額3万7500円が、退職金にかかる所得税だ(課税所得が1千~194万9千円は所得税率5%、控除額ゼロ)。