天皇ご夫妻は1993年のご成婚から、6月9日で30年を迎えた。天皇陛下が英国留学した際に知り合い、その後40年にわたって陛下やご一家と親交を続けてきたのが元プロテニスプレーヤーの佐藤直子さんだ。コロナ禍では国民を思ってテニスを控えてきたというが、そのテニスコートには屈託のない笑顔をみせる天皇ご一家の思い出がつまっている。
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「殿下、もう少しいきませんか?」
テニスを始める前にストレッチで体をほぐしていた、当時皇太子だった天皇陛下に佐藤さんが声をかけた。
「いやぁ、これ以上は無理……」
痛そうに限界だと告げる陛下の隣で、雅子さまと長女の愛子さまがクスクス笑った。
陛下はストレッチが苦手のようだ。一方で体の柔らかいおふたりはストレッチを楽々こなし、苦戦する「お父さま」の様子を、笑顔で見守る。陛下は、こうしたご家族との何気ないやり取りのなかで、心地よさそうに安らいだ表情を見せるのだという。
テニスコートは、運動好きなご一家が貴重なプライベートの時間を全力で楽しみ、忙しい日常の疲れを癒やす場になっている。そのテニスのお相手を務めてきたのが、佐藤さんだ。
佐藤さんが陛下に初めてお会いしたのは、陛下がまだ20代の青年のころ。英オックスフォード大に留学中だった陛下がロンドンで開かれたウィンブルドン選手権の観戦に訪れ、選手として出場していた佐藤さんが説明役を務めることになったのだ。
日本プロテニス協会の第一号女子会員である佐藤さんは、日本の女子テニス界を先導してきた存在だった。日本の女子テニス選手で世界のプロトーナメントで活躍する日本の女子テニス選手がほとんどいない1977年に、全豪オープンシングルスでベスト8入り。ウィンブルドンでも長く戦ってきた。日本プロテニス協会理事長などを務めた。
実は佐藤さんと皇室の縁は深い。佐藤さんの両親もテニスが得意。昭和の時代に皇居内にあった「パレスクラブ」のメンバーで、東宮時代の上皇ご夫妻と試合をしたこともある。