舞台は18世紀末、大飢饉に襲われた東北の寒村。先代の罪により村中から虐げられている伊兵衛(永瀬正敏)一家。ある日、伊兵衛は大罪を犯すが、娘の凛(山田杏奈)が父をかばい、家を守るために自ら村を去る──。「遠野物語」の民話に着想を得た映画「山女」。出演の山田杏奈に見どころを聞いた。
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初めて脚本を読んだ時、不思議な雰囲気をまとった作品だと思いました。18世紀末の東北地方で飢饉に苦しむ人々の生活が生々しく描かれているところが興味深く、森や山の力をすごく感じました。
私は山や森の中で撮影する機会が多く、そのたびに自然についてしっかり考えなくてはと実感させられます。山へ入ると空気が変わるのを感じますし、毎回「お邪魔させていただきます」と神妙な気持ちになります。
山で撮影していると、見えているところはたくさんの木に囲まれているのに、世界規模では森が失われている。正直実感しづらい部分はありますが、自然は永遠ではありません。「山女」の撮影では邪魔な枝があっても切ることはせず、自然に配慮しながら進めました。森の中では鹿をはじめ、動物をたくさん見かけます。森は彼らが生きる場ですし、人間には生態系を壊してしまう圧倒的な力がある。だからこそ、手をつけてはいけない部分もあるのだと思います。
私が演じた凛は、村で虐げられ、苦しみながら生きていました。家では娘というより母親のような役回りもしなければならない。毎日働きっぱなしで自分の人生を考える暇なんて一秒もない。時代背景もありますが、この映画はヤングケアラーの話でもあります。そんな凛がある日、盗みを働いた父親をかばって、自ら村を去ります。決して越えてはいけないと言い伝えられている山神様の祠を越え、山で生きることを決意します。
山ではすべて自分で行動しなくてはなりませんが、ある意味、何でも自由にすることができる。そんな環境に置かれて、彼女は初めて自分のことを考えます。最終的に自分の幸せのために生きていく凛の物語は、現代女性にも通じるものがあるのではと思っています。
(取材・文/坂口さゆり)
※AERA 2023年7月3日号