朝日新聞で、コラム「アロハで猟師してみました」や「新聞記者の文章術」を担当する近藤康太郎のもとには、文章の書き方や勉強の仕方を学ぶため、社内外の記者が集まってくる。その文章技法を解説した『三行で撃つ <善く、生きる>ための文章塾』(CCCメディアハウス)に続き、読書法や勉強の仕方についてまとめた姉妹編『百冊で耕す <自由に、なる>ための読書術』(同社)が刊行された。多数の方法が紹介されている本書より、新聞記者ならではの読み方を一部紹介する。
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本読みのディグニティ
わたしは長いこと新聞記者としても働いてきた。とくに駆け出し記者の仕事は、「待つこと」だ。刑事課長が刑事部屋を出てくるのを待つ。贈賄事件の容疑者が自宅に帰るのを待つ。造船所の火事で、現場検証の立ち会いから遺族が出てくるのを待つ。
待ちたくて待っているわけではない。時には雨や雪が降っている場所で、立ちっぱなしで数時間も過ごす。思い出しても胃が痛くなる。
政治記者が長かった元朝日新聞の三浦俊章さんは、アメリカ政治に関する著書がいくつもある知識人だが、彼には多くを教わった。いちばん印象に残っているのは「赤絨毯の上で古典を読む」という話だった。
政治記者の新人が最初にすることはやはり、張り込みだ。国会の赤絨毯の上で、総理番ならば首相にくっついて歩き、どこかの部屋に入ったら出てくるまではひたすら待つ。
金魚のフンみたいで見栄えのいいものではないし、いまではネット民から意味もなくたたかれる。政治家からもあまり尊敬されないだろう。軽侮の目で見られる。
三浦さんも国会の赤絨毯で、政治家が出てくるのを待つのが日々の仕事だった。そのとき、スマホをいじったり新聞や雑誌を読んだりはしなかった(スマホはなかったろうが)。
赤絨毯の上に立ち尽くし、J・S・ミルやジョン・ロックら政治学の古典を読んでいたと、わたしに語ったことがある。このアドバイスは、染みた。