タイ北西部の国境の街メソトのミャンマー人街。国境貿易の中心地でもある同地域には現在、多くの民主派が逃れている(撮影・増保千尋)
タイ北西部の国境の街メソトのミャンマー人街。国境貿易の中心地でもある同地域には現在、多くの民主派が逃れている(撮影・増保千尋)
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 ミャンマーで軍が政権を掌握して2年あまりがたったが、今も軍は市民に銃を向け、空爆を続けている。民主派勢力の武力抵抗が拡大し、内戦が激化しているが、その拠点の一つが国境を接するタイの街・メソトだ。この街で苦悩するミャンマー民主派を取材した。AERA 2023年6月26日号の記事を紹介する。

【写真】ミャンマ ーの刑務所で行なわれていた拷問を再現している展示はこちら

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 ミャンマーの人気作家トーンネイソー(46)はかつて毎夜、最大都市ヤンゴンの街に繰り出す都会暮らしを楽しんでいた。だが、2年前に起きた軍事クーデターで生活は一変。現在は、ミャンマー国境に近いタイ北西部で、民主派の武装組織である国民防衛隊の一員として国軍との戦闘に参加する。

 隊では武器調達を担うが、「クーデター前はナイフを持ったこともなかった」と笑う。タイ国境地域は一見、穏やかな田舎街だが、国軍による空爆の音が響くこともある。トーンネイソーも前線に武器を運んだ際、銃撃戦に巻き込まれた。昨年末に現地を訪れ、隣国タイで民主化運動を続けるミャンマーの人々を取材した。

メソトは国外最大の民主派拠点のひとつ。現地の移民学校を訪ねると、子どもたちが教室に貼られた「三本指」を見せてくれた(撮影・増保千尋)
メソトは国外最大の民主派拠点のひとつ。現地の移民学校を訪ねると、子どもたちが教室に貼られた「三本指」を見せてくれた(撮影・増保千尋)

■国全体が「刑務所」

 ミャンマー国軍は2021年2月1日、アウンサンスーチー氏ら政権幹部を拘束し、非常事態宣言を発令して全権を掌握した。市民はこれに抗議する平和的なデモをすぐに組織し、国軍への抵抗の意を表す三本指を立てて通りを歩いた。だが国軍は、「春の革命」と呼ばれるこの民主化運動を武力で激しく弾圧。今も無辜(むこ)の市民に銃弾を浴びせ、民間人への空爆を続ける。

 コロナ前までは毎年6~8%の経済成長率を維持し、「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれていたミャンマーのこの急変に世界が驚愕(きょうがく)したが、タイ北西部に拠点を置く人権団体「政治犯支援協会」の50代の男性職員は、「いつかまた軍事政権に戻るだろうと予測していた」と語る。

 男性は、1988年にミャンマーで起きた大規模な民主化運動に参加し、自身も政治犯として刑務所に6年間収容された。その時に受けた拷問が原因で、PTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされたという。

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