自民党総裁の岸田文雄首相(右)と山口那津男・公明党代表。自公連立は発足以来、最も深刻な危機にある
自民党総裁の岸田文雄首相(右)と山口那津男・公明党代表。自公連立は発足以来、最も深刻な危機にある

■選挙協力なかったら

 公明党は支持者の高齢化などで集票力を落としているが、それでも、衆参両院の比例区の得票は600万票を超える。衆院の289小選挙区で1選挙区当たり1万~2万票になる。12年の総選挙では、その力がフルに発揮され、自民党は政権に復帰。その後も、安倍政権下で自公両党は衆院選2回、参院選3回を勝ち抜き、公明党・創価学会は長期政権の維持に貢献した。菅氏が創価学会の要求を丸のみした理由もそこにある。

 その公明党が東京都で自民党候補を推さないというのだから、自民党議員は心中穏やかではない。とりわけ、次点との差が2万票以内だった自民党議員にとっては、公明党の非協力で「逆転」が現実味を帯びるのだ。

 TBSのニュースサイト「NEWS DIG」が6月4日に配信した「もしも自公の選挙協力なかったら?」が興味深い。21年の衆院選のインターネット調査で、自民党に投票した有権者のうち「公明党支持者」の割合を算出。自民党候補の得票から差し引いてみた。その結果、自民党は東京都の25小選挙区のうち16選挙区で勝利していたが、3選挙区では立憲民主党の候補に敗れ、さらに3選挙区でも負ける可能性がある。つまり、自民16・立憲8・公明1という選挙結果が、情勢次第では自民10・立憲14・公明1になるという。

 公明党は、自民党への「非協力」は東京都に限定するとしているが、創価学会本部や創価大学を抱える「拠点」の東京都での動きは全国に波及しそうだ。

 公明党は4月の統一地方選で全国的な選挙運動を展開。それを衆院選向けの態勢に組み替えるには半年程度の時間がかかるという。そのため、6月21日までの通常国会中の衆院解散・総選挙は困るというのが本音だ。通常国会が閉幕し、解散が今秋以降となれば、公明党側も一息ついて、自民党との公認調整も再開できるという楽観論が自公両党にはある。一方で、岸田政権では菅氏が担ったようなパイプ役がいない。松野博一官房長官は政局がらみの調整にはほとんど関わらないし、茂木幹事長は公明党側からの信頼感が薄い。創価学会が公明党を飛び越えて政府・自民党と折衝するという「いびつな関係」を続けてきたつけが回っている。パイプ役不在のままでは、自公の摩擦は収まらないという悲観論は根強い。

 自公連携が崩れた後はどうなるか。(1)衆院選で岸田自民党が苦戦、立憲や維新の野党側が躍進する(2)岸田自民党が維新や国民民主党との新たな連携を探る──といった展開もあり得る。自公関係のきしみは政界大波乱の可能性を秘めている。(政治ジャーナリスト・星浩)

AERA 2023年6月19日号より抜粋