東京五輪が終わった。この五輪をめぐってはさまざまな問題が明るみに出て、コロナ感染者も激増した。この五輪は何を残したのか。私たちはこれからどう生きればいいのか。ジャーナリストの池上彰さん、作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんの二人がオンラインで語り合った。AERA 2021年8月16日-8月23日合併号から。
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――今回の五輪で、日本は当初、東日本大震災からの復興を世界にアピールする「復興五輪」を目指したが、この五輪はいったい私たちに何を残したのか。
池上:今のオリンピック、スタートこそ「復興五輪」という話でしたけど、途中から「コロナに打ち勝った証し」ということに変わるわけですよ。まずオリンピックありきで、とにかくオリンピックをやるために、目的が途中で変わっちゃう。本来あり得ない話ですよね。国民がワクチンを打ち終わって、本当にコロナが収まってからのオリンピック開催なら、コロナに打ち勝った証しとしてって言えますけど、今、闘っている真っ最中に、打ち勝った証しとしてなんて言えない。とにかくオリンピックやりたかっただけだよねってことですよね。
■政権のパラドックス
佐藤:政権にとっては、オリンピックができないとなると、コロナに打ち勝てなかった=政権担当能力がなかったということになってしまう。だから政治アジェンダっていうのは非常に怖いんです。コロナに打ち勝つということを目標とした場合、その目標が達成できなかったら、コロナに打ち負かされたということになるわけですから、どうしてもやるしかない。
私が残念なのは、オリンピックが政争の具になったということ。野党側もやるのか、やらないのかという組み立てをして、政争にしてしまいました。オリンピックを開催することのリスクが極めて高いのならば、このリスクはどのくらいなのかということをきちんと見極めるためにも、専門家的な知見というものを踏まえた上で、国会で議論をする必要がありました。与野党で専門家をきちんと推薦して公聴会を行うというような提案だったら、変わった可能性はあると思うんです。私は今のコロナの状況は、準戦時下に近いと思うんですよ。こういう状況ですから、政争を停止しないと。こういうときは大連立を呼びかけるべきだと思うんですよ。
それなのに、日本の政治を見ていると与党も野党もことを矮小化した政争に明け暮れていて、よくわかっていない感じがするんです。絶対的には今の菅政権は弱くなっています。ところが政治全体も弱くなっていて、政権よりも野党の弱くなり方のほうが激しいから、相対的には強くなっているとさえ言える。