佐藤慧(さとう・けい)/1982年、岩手県生まれ。著書『しあわせの牛乳』で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞など受賞
佐藤慧(さとう・けい)/1982年、岩手県生まれ。著書『しあわせの牛乳』で第2回児童文芸ノンフィクション文学賞など受賞

 国境を挟んで隣接するトルコは、シリア側に拡がるクルド人勢力を危険視し、猛反発してきた。この勢力を、トルコ内でテロ組織とされているPKK(クルディスタン労働者党)と同系の組織とみなしているからだ。

■21万人が家を追われ

 19年10月、米国のトランプ大統領(当時)はシリアからの米軍撤退を宣言。直後、待ち構えていたかのようにトルコ軍がシリア北部へ向けて「平和の泉作戦」と名付けた軍事作戦を開始した。この攻撃の直後に家を追われた人々は21万人以上にのぼり、現在も散発的なドローン攻撃が続いている。

 今年2月に発生したトルコ・シリア地震は、震源地から100キロ以上も離れたコバニでも家屋の倒壊被害が出た。まだ1歳に満たない娘のアイリスさんと暮らす母のジハンさんは、「戦争も自然災害もある。果たしてこの地で子育てを続けられるのか」と不安を口にする。

 今世紀もまた「戦争の世紀」となってしまうのか。クルドの人々の傍らに、戦火ではなく平和の明かりが灯ることを祈りながらシャッターを切った。(フォトジャーナリスト・佐藤慧)

AERA 2023年5月22日号