ほかにも、福島への訪問を誘うポスター「来て。」シリーズ、農林水産物を生産者の思いも含めて丸ごとアピールするCM「ふくしまプライド。」、新型コロナウイルスで2度中止した以外は毎年開催している「風とロック芋煮会」、県内59市町村を順番に巡るラジオ福島の公開生番組……。放送が100回を超えたNHKの「福島をずっと見ているTV」のMCも務めた。
こうした発信の軌跡をまとめたのが、『ふるさとに風が吹く 福島からの発信と地域ブランディングの明日』(朝日新聞出版)である。
同書は、不思議な構成になっている。個々の発信ごとに一章を割き、箭内さんがその発信についての思いやエピソードなどを綴り、雑誌「広告批評」を経た編集者で大阪出身の河尻亨一さん(48)が取材を元に周囲の人たちの記録や客観的な解説を書く。二人の文章を縄をなうようにより合わせて一冊にした。
このスタイルを提案したのは河尻さんだ。箭内さんから単行本の企画を相談されて、当事者が語る物語でも取材者が距離を置いて描く物語でもないものにしたいと考えた。
「震災後の福島の発信というテーマに肉薄するには複眼の視点が必要だと感じました。主観と客観を織りまぜることで、まるで対話が聞こえてくるような共著にしたいと考えたんです。
言ってみれば文章のラリーですよね。著者二人のやりとりが噛み合ったり、逆に微妙にすれ違ったりするところに、地域とブランディングのリアルな可能性を読み取っていただければと」
箭内さんも、世界の広告を熟知している河尻さんの視点を知ると、今後の活動に向かう気づきが与えられる気がした。
背景には、こんな体験もあった。2011年の紅白。箭内さんたち猪苗代湖ズが歌ったのは「I love you & I need you ふくしま」という曲だった。「元気が出た」「ありがとう」などの感想が多い中で、「福島にとどまりなさい、と言われているようで苦しい」という声も届いた。想定外の反応。箭内さんは翌年、「君と僕の 違うところを 尊敬し合いたい」で始まる曲「Two Shot」を作った。
「福島を伝えること、届けることが商品の広告よりはるかに難易度が高いと痛感させられました。復興には、同じフレームに考えの違う人たちが収まって前に進んでいくことが必要です。この本もツーショットなのです」
本作りでは、お互いの原稿を往復させながら、それを元に直し、修正を見てまた直す。童謡「やぎさんゆうびん」のようなやりとりが続いたという。
『ふるさとに風が吹く』では、およそ10の発信の誕生秘話や成果が描かれる。