誰もが思い出すCMを生み出してきた箭内道彦さん(59)は、一方で故郷・福島の復興につながるイメージを発信してきた。「誤解を理解に変える」。このほど、活動を『ふるさとに風が吹く』(朝日新聞出版)にまとめた。共著者の河尻亨一さんと綴るちょっと不思議な構成の本と箭内さんのこれまでを紐解くと、福島に留まらない地域作りのヒントが見えてきた。
上からだんだんと薄くなる淡い空色のグラデーションを背景に、手紙が綴られている。
「あなたの思う福島はどんな福島ですか?」
最上段の大きな文字が目を引く。その下は小さな文字で、「ふらっと、福島に。」「あなたと話したい。五年と、一日目の今日の朝。」「福島の未来は、日本の未来。」「ほんとにありがどない。」……。右下から赤べこが見上げている。
2016年3月12日に全国紙各紙に掲載された福島県の全面広告である。メディアの報道がトーンダウンする3・11の翌日、というところにもメッセージが込められているだろう。
「僕が思う福島は、桃や梨、お米やお酒がおいしくて、風がまぶしくて、山がきれい。何よりも、人があったかいのです。福島は人が名産、というふうにしていければ、と思っています」
この広告を“監修”した箭内道彦さんはそう話す。福島県郡山市出身のクリエイティブディレクター。タワーレコードの「NO MUSIC,NO LIFE.」、内田裕也さん・樹木希林さん夫妻が初めて共演したリクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」など記憶に残る広告を生み出してきた。
髪はずっと金髪。広告以外でも、NHKの「トップランナー」のMCになったり、無料の雑誌「月刊 風とロック」を自費で編集・発行し続けたり、ロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストとして、2011年に紅白歌合戦に出場したりするなど、活動は多彩だ。
そんな箭内さんが力を注ぐのが故郷・福島県のブランディングである。2015年には、福島県のクリエイティブディレクターにも就任し、「官」としても「民」としても、発信し続けている。
テーマは、クリエイティブ(広告)で福島の課題を解決できるか。風評被害などの「誤解」を福島への「理解」に変えることを目指す。全国紙に載せた「あなたの思う福島は……」もその一つであった。