たとえば、「ふくしままっぷ」。新聞の見開きより一回り大きいサイズを八つ折りにしてある。ざらざらと質感のある紙を開くと、すべて手書きのイラストと文字で、県の基本情報から県民が思う「これから」、名所やグルメなどを描き入れた地図などが現れる。赤色が目につく。

 県の総合情報誌のリニューアルを依頼された箭内さんが「体温があり、ずっと手元に残して幾度も読み返したくなるようなものを届けたい」とひらめき、アートディレクターの寄藤文平さんが仕上げた。

ふくしままっぷ
ふくしままっぷ

 まっぷは、セレクトショップ「BEAMS」と福島県が共同で福島の魅力を届ける「ふくしまものまっぷ」などの派生効果も生んだ。寄藤さんが考案したキャラクターの「ベコ太郎」はその後、グッズが作られるほどの人気となり、県の6秒動画シリーズ「もっと 知って ふくしま」にも登場する。

 県の発信では、職員たちの力も大きい。箭内さんはクリエイティブディレクターに就任してすぐに、彼らを前に、「県庁熱血物語みたいな映画を作りたい。それぞれにみなさんは素晴らしい仕事をしている」とエールを送った。

 それも刺激になったのか、箭内さんがいわば触媒となって、県庁の部局を越えて職員たちが自由に動き出した。「ふくしままっぷ」のような型破りの企画も通した。箭内さんも思わず「一般の企業にもここまでできる人は多くはいません」と感嘆したという。
「県庁のみなさんは、結果を体験することで、ますます輝いてきました」

 箭内さんもまた、「お堅い行政の広告」という枠を外し、「オーバークオリティー」を心がけてきた。派手、という意味ではない。
「一回見たら覚えてしまう強烈なインパクトをもつ広告ではなく、これまでの広告の物差しにあてはまらないものが必要だと考えました」

 その象徴の一つが、8分弱のショート・ミュージカル・ムービー「MIRAI 2061」だろう。西田敏行さん、清野菜名さん、林遣都さんらが出演しているが、2061年に孫娘を連れたおばあさんが3世代の50年を振り返るストーリーは、ありふれた家族史だ。しかしそれゆえ、見る側に「じわん」と染み入ってきて長く残る。

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