撮影・倉田貴志
撮影・倉田貴志

「廃炉作業に50年かかるなら、2061年の福島はどうなっているのだろう、とイメージしました。また、震災直後、福島の女性は子どもを産めないのではという悩みも耳にしました。『孫まで生まれてますよ』という映像を作りたかった。僕は、届ける相手が目の前にいると、アイデアが浮かぶのです」
 と箭内さんは語る。そのためにも、なるべく自分を「空洞」にしておくという。

 箭内さんを一つの芯として、多くの人たちの力が星雲状に重なることで、長期にわたり継続してきた福島の発信は、福島だけに留まらない。『ふるさとに風が吹く』は福島の事例を描いているが、「福島だけで終わらせない。全国のヒントになるふるさとブランディングがもう一つのテーマ」だという。箭内さんは言う。

「反面教師でもいいから、ほかの地域の方たちに何か参考になったらいいな、という気持ちが強くあります。こちらが答えを用意するのではなく、読んでくれた人が何かをピックアップしてくれたらうれしいです」

 ブランディングに正解はない。河尻さんは、箭内さんのやり方を整理して伝えるのではなく、活動をそのまま見せる形を選択した。「現在進行形の揺らぎ」も隠さなかった。

「箭内さんがまえがきに記しているように、福島は、全国の自治体が直面する課題を先取りしている面があります。クリエイティブは解決に向けてのひとつの鍵です。福島県の発信をつぶさに見ていくと、その根底には場づくり(プラットフォーム)や拡散(インフルエンス)の発想があることに気づかされます。

 本書では『点のブランディング』というワードで言い表しましたが、これは現代的なブランディングの文脈に合致する考え方で、多様性と包摂の時代へのヒントが含まれていると思います。

 昨今、欧米では、公共の課題解決に貢献することが、企業に持続可能な成長ももたらすという考え方がブランディングの主流ですが、こうした視点で見ていくと、福島の発信は、実は世界につながっている。その”接点”まで示唆することで、『ふくしま』の発信に息づくマインドを、様々な地域、組織にオープンかつシェアできるものにしたかったのです」

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ずっと故郷が嫌いだった