
今から約20年前、インターネットが一般に普及し始めたころは、電話回線を使って接続する低速なネットワーク回線が主流だった。ダイヤルアップ接続につづいて登場したのが、「ISDN(アイエスディーエヌ)」である。
ISDN(Integrated Services Digital Network)は、電話やFAXなどの通信サービスを効率よくするために作られたデジタルネットワークのこと。ISDNの登場で、インターネット通信は高速化して、常時接続も可能となった。同時に通話用回線としても利用できる。ちなみに、電話回線によるデータ通信速度が最高で56Kbps(※1)、ISDNでは64kbpsにまで向上した。
ISDNがインターネット接続の手段として主流になった1990年代後半から間もなく、21世紀に入り「ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)」が登場する。高速・大容量な通信を可能にするブロードバンド時代の幕開けである。
ADSLは、アナログ電話回線を利用するものだが、電話(通話)などでは利用しない領域(高周波帯域)を利用することで高速接続を可能にして、電話とインターネットの両方を同時に使うこともできた。
1Mbpsがダイヤルアップ接続(56kbps)の約17倍の速度と考えると、ADSLの最大50Mbpsは飛躍的な進歩といえる。ただ、環境によって常時その速度が出ないなどの弱点もあった。そして、その後すぐに最大速度100Mbpsの光ファイバー接続(FTTH:Fiber To The Home)が主役の座に躍り出てきた。
ナローバンドからブロードバンドへの橋渡しの役割を担ったISDNも、そろそろ“任務完了”だろうか。現に、NTT東西は2025年までに既存の加入電話網をIP網(※2)に完全移行するのに伴い、「2025年時点で終了する」と表明したサービス品目の中にISDNも入っている。
ただ、IP電話では安定して利用できない可能性のあるファクシミリ送受信機が、現在メーカー各社から多数提供されている。アナログ回線・ISDN回線の需要もいまだに高いことから、その存在意義を見直す意見もあるようだ。
10年後、果たしてISDNは「消えたサービス」として、人々に記憶されるのだろうか。
※1 「bps(bits per second)」とはデータ転送速度を表す単位で、1秒間に転送することができるデータの量(bitは情報量の最小単位)を示す。
※2 IP網とはIP(Internet Protocol:インターネット・プロトコル)によってデータの送受信を行うことができる通信ネットワーク。