ぼくが高校生のころ、つまり40年前、英和辞典といえばK社のC辞典だった。クラスの9割以上が使っていた。異変が起きたのはそれから10年あまりたった80年代後半だ。大修館書店から『ジーニアス英和辞典』が出て、学習英和の勢力図が変わった。
『ジーニアス』が画期的だったのは、語法、すなわち言葉の使われ方に力点を置いたこと。語法研究の第一人者、小西友七を編集主幹に迎えた。もともと大修館書店という出版社は諸橋轍次の『大漢和辞典』を刊行してきた会社で、言葉の用例をたくさん集めることに長けている。その伝統が同社初の英和辞典、『ジーニアス』にも活かされたのだろう。
 同辞典の「史上最大の改訂」と銘打った第4版が出たのが2006年。それから8年たった昨年末、第5版が出た。
 いちばんわかりやすい変化は、カラーイラストの「Picture Dictionary」が巻末についたこと。言葉だけではわかりにくいものを、イラストで説明する。教室や住宅、交通、地理、身体、髪型など。女性のベリーショートは「crop」というのですね。このイラスト辞典はおもしろいので、次の第6版ではもっと増やしてほしい、と今から思う。
「on」「over」「above」など前置詞の意味を図で示した「意味ネットワーク」もわかりやすい。
 収録語数は5千語増えて、10万5千語になった。増えたなかにはネット関係の言葉も多い。「defriend」なんて言葉知ってました? SNSなどの友だちリストから外すことをいうそうだ。「textwalking」は歩きメール、歩きスマホ。
 もちろんお得意の語法は全面的にバージョンアップしている。引くだけじゃなく読んでも楽しい。
 高校時代の英和辞典を何十年も使い続けている人もいる。でも、言葉は変化しているし、辞書は進化し続けている。辞書と畳は新しいほうがいい。

週刊朝日 2015年2月6日号