高齢化の進行と終わりのない人口減少を筆者は「見えない大津波」と呼ぶが、人口減少は社会のさまざまな基盤を根こそぎ奪い取っていく。学校、会社、交通インフラ、商店街、村、町が消えていく。

 そうした中で増えるのは葬儀会社だ。他の国ではめったに見られない葬儀会社やお墓の宣伝が、テレビやさまざまな広告媒体を通じて繰り返し行われている。今の日本では当たり前でだれも驚かなくなったが、そのこと自体、異常であり、そのことを目にした外国人には異様な光景と映る。彼らは高齢化のもたらす意味を理解し、日本の行く末に不安を感じるだろう。

「見えない大津波」が単に葬儀会社が増えるだけなら、それほど大騒ぎする必要はないのかもしれない。しかし、人口減少によって、従来受けられたサービスが受けられなくなり、人びとの暮らしに大きな影響を与える。

 路線バスで見れば、2010年度から2018年度の間に東京からスペインのマドリードの距離に相当する1万788キロが廃止された。全国の鉄道網の廃止と共に人びとの暮らしはますます不便になっていく。

 本来、人口維持には欠かせないと思われる病院も同様だ。厚生労働省は人口減少への対応として病院の閉鎖を進めようとしている。2019年9月、市町村などが運営する公立病院と日本赤十字社などが運営する公的病院の25%超にあたる全国424の病院について「再編統合について特に議論が必要」とする分析をまとめ、再編すべき病院名を公表した。

 とりわけ深刻なのは介護人材の不足だ。

 高齢者が増えると同時に全国で介護施設が急速に増えた。しかしそこで働く人材不足が終わる様子はない。給料を上げれば就業者が増えるという意見もあるが、そもそも若者の数が減少している以上、他の産業とのパイの奪い合いが起こるだけだ。

 ロボットを活用しようという意見もある。しかし、命にかかわる分野ですべてロボットが人間に置き換わることは可能だろうか。体調が変わりやすく身体能力の低い高齢者への細かな気配りができ、さまざまなニーズに対応できるのは人間しかいない。

 そもそもそれを高齢者自身は望んでいるのだろうか? サービスの一部の支援であればまだしも、人間よりロボットに世話をしてほしいと願う高齢者はいないだろう。高齢者の世話は人手不足だからサービスが行き届かなくても仕方がない、ロボットに代替させればよいという安易な考えは一種の「姥捨て山」の発想ではないか。

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人口減少と日本の衰退の関係