それが犬の投資話でだまされて、追い込まれてしもうて。楽屋で聞いてエーッてなってるときに、錚々たる師匠連が言うてるんです。「これがほんまの犬死にかあ」て。これはすさまじい世界やと思うてね、どっかに距離を置く気持ちもあったんですね。

 もう、一緒に仕事したいなあと思う人も、あんまりいなくなりました。逆にね、後半、だいぶ感じてましたが、自分との接し方に若い芸人が困っているのがわかるんです。

 とくに今田(耕司)と東野(幸治)ね。東京で一緒の仕事があって、新幹線に乗ったら、別の車両やったけど、あいさつに来てくれた。非常に礼儀正しい。

 「明日はよろしくお願いします」言うから、「ああ、こちらこそよろしく」言うて。そっから、ほぐれない。どうしよう、何を話したらええんや、いう戸惑いが感じられた。ああ、もう、そうなんやなあと思いましてね。

 テレビのバラエティーも変わりました。仲良し同士でしかやらないでしょう。藤田まことさんも言うてましたけど、「てなもんや三度笠」なんか、大変な緊張感があった。仲のいいことはええこっちゃと武者小路実篤も言うてますけど、番組としては、あんまりおもしろくないんですね。会話にも知性がなくなる。

 昔の放送の世界には、なるほど、と思わせる会話がありました。菅原通済さんやの石黒敬七さんやの、だれやわからんけど教養あるいうおじんもいましたしね。そういうコメンテーター、ほしいなあ。私? いや私はやりません。

 世の中には、おもしろいことがいっぱい転がってますよ。近鉄ファンになったので、電車で大阪ドーム行くと、乗客を見るだけで、おもしろい。あの人は、どんな人生送ってきたんかなあなんて想像すると、小説読むようやないですか。若い子が床にペタンと座ってても、怒るのやなしに、この子はどうしてこうなったんやろ、と考えてたのしむ。

 思いどおりにならんことほど、おもしろいんです。「楽しむ」という字と「愉しむ」というのとあるでしょう。楽することを、たのしいことやと思うからいかんのですよ。すべてを愉しむ。苦しい、しんどい、不便、そういうことを選んでやると愉しなります。

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横山ノックに贈った句