写真はイメージです(Getty Images)
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作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、性産業について。

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 ♪バーニラバニラバーニラ、キュージン!  バーニラバニラ、コーシューニュー♪

 原宿や新宿などの都心で高い確率で出合ってしまう「バニラカー」。バスなどを丸ごと広告でラッピングした広告車で、耳に残るテンポの歌を高音で鳴り響かせ走るアレだ。「もっと稼ぎたい!お金超大好き!」といった身も蓋もない文句や、「10億円くばります」「15億円還元」などといったキャッチコピーがデカデカと書かれた車体から流れる「高収入~!」の甲高い歌声は、街の風景を一瞬に支配する。強烈だ。

 いつの時代も……というか私が知る限り、特に1990年代以降に、性産業の入り口は明るく広く軽く前向きであり続けていると思う。その役割を果たしてきたのが、バニラをはじめとする風俗と女性たちをつなぐ風俗求人媒体だ。

 昔、「てぃんくる」という女性向けの風俗専門求人情報誌があった。1992年創刊、その手の求人情報誌としては日本初ということもあり、大きく話題になった。コンビニではたいてい売られていたし、求人だけでなく人気作家の連載があったりと、ちょっとした性の情報誌の役割も果たしていた。私も何度か購入したことがあるが、当時タクシーに乗れば、「てぃんくる」の広告シールが窓に貼られていたりなど、まるで一般雑誌のように「てぃんくる」は認知されていた。

 今にして思えば、「てぃんくる」が果たした役割は大きかった。女性には隠されていた(入らなければ見えなかった)性産業に、どのような仕事があって、どのくらい給料がもらえるのかが具体的に見え、どうやったら就職できるのかというガイドにもなった。求人情報誌が性産業の門になったのだ。なにより、「てぃんくる」は今のバニラに負けず劣らず、にぎやかで前向きだった。風俗も女性にとっての選択肢の一つだし、怖くないし、若いうちにしかできないチャンスだよ!と「てぃんくる」が放っていた前向きなメッセージは、確実に性産業の入り口を女性たちに広げたことだろう。

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性産業は風景化し続けている