「週刊朝日」の書評欄「週刊図書館」の休館を前に、最後にお薦めしたい本を「次世代に遺したい一冊」と題して、執筆陣の方々に選んでいただきました。
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■『「神武東征」の原像』(宝賀寿男 青垣出版)
選者:ノンフィクション作家・足立倫行
現在、考古学界主導の日本古代史研究は行き詰まっている。邪馬台国は大和にあったとしながら、箸墓古墳など初期の前方後円墳6基の被葬者が誰一人として確定できないでいるからだ。
戦後、応神以前の天皇を「非科学的」と排除したせいである。だが、異常な長寿を2倍暦・4倍暦で修正し、記紀にある「神武東征」を史実と見ればどうなるか?
東征氏族の祭祀、習俗、動物トーテムを東アジア規模で検証する本書は、一条の光をもたらす。
■『続あしながおじさん』(ジーン・ウェブスター 新潮文庫ほか)
選者:文芸評論家・大矢博子
『あしながおじさん』は有名だが、続編があるというのはどれくらいの人が知っているだろう。主人公は『あしなが~』のヒロインの親友・サリー。前作が裕福な男性の庇護のもとで成長するシンデレラストーリーなのに対し、『続』は逆だ。上流のお嬢さんが社会に出て、自分の手で仕事と恋を掴んでいくのである。この対比があって初めて、『あしながおじさん』という20世紀初めの女性の物語は完結する。ぜひセットでお読みいただきたい2冊である。
■『東京DEEPタイムスリップ1984⇔2022』(善本喜一郎 河出書房新社)
選者:作家・片岡義男
写真の技法に定点観測というのがある。10年、20年の時間をはさんで、おなじ場所をおなじ画角で撮り、人によってはおなじレンズとカメラを使う。定点観測した東京の続編だという。定点のこちら側は2022年、あちら側は1984年だ。80年代は多忙にかまけてほとんど知らない。あの頃はこんなだったのだ、という楽しい発見が数多くあるはずだ。