ミッツ・マングローブ
ミッツ・マングローブ
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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「ネットニュースに書き込まれるコメント」について。

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 昔から私は、音楽が鳴っている場所で文字を読んだり書いたりすることができません。この連載も基本的に無音の中で書いています。外界の騒音やサイレン音などは辛うじて大丈夫ですが、思うように言葉が出てこない時などは耳栓を装着することもあります。

 私にとって「書く」という行為は、脳内で鳴っている声を「書き取る」ことであり、「読む」という行為は、視覚を通して入ってきた文字情報を脳内で「鳴らす(音声化する)」ことです。だからなのか、メールやLINEがテンポ良く送れません。例えば「頑張ってね」という台詞ひとつでも、普段の私の冷淡な口調を文字に込めるのは難しく、受け取った相手の脳内でどのように「再生」されるか不安になってしまい、結果「頑張ってください」と形式的な丁寧語に終始することがほとんどです。

 周囲を見渡すと、ちゃんと自分の人格を文字に落とし込めている人が多いなと、いつも感心させられます。たまに流出する不倫カップルのLINEのやりとりなども、実に軽快かつ即妙で、「これが世間一般の恋愛速度だとしたら、自分は一生(特に若い男とは)恋愛できないかも」と不安になります。

 一方で、そんな時代の軽やかさに逆行していると感じるのが、ネットニュースに書き込まれる「コメント」と呼ばれる類の文章です。中でも「怒り」や「批判」をぶつける人たちの「口調」が気になります。なぜか皆一様に「絵に描いたような、昔ながらの怒り口調」なのです。

「ふざけるな!」「逃げるな!」「許されると思っているのか!」「知らなかったでは済まされないぞ!」など、妙に整った日本語ばかり。もちろんこれらを読む際も、すべて自動的に音声化されてしまうため、私の脳内は「芝居がかった昭和の国会野次」と「十勝花子」で埋め尽くされます。

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