みなさんは相手が困っていることに気づいたとき、「迷惑に思われないか」「おせっかいだったらどうしよう」とためらってしまい、けっきょく声をかけられなかったという経験はないでしょうか? 他人への気づかいがサッとできればいいけれど、それをするには「自分の中でのハードルが高くて......」という人もいるでしょう。
そんなみなさんに今回紹介する書籍が『気づかいの壁――「気がつくだけの人」を「気が利く人」に変える、たった1つの考え方』」。元リクルート「CS推進室」教育リーダーで、独立後は「顧客ロイヤルティ(お客さまとの信頼関係づくり)」をベースにおよそ200万人のビジネスパーソンの研修やセミナーなどをおこなってきた川原礼子氏が、「気づかいにおける思考法」について明かした一冊です。
気づかいというと、何やらあいまいで抽象的なものに思えますが、同書の良い点は実践できるスキルとして具体的に書かれているところです。たとえば、先ほどの「声がけを躊躇してしまう」という心の壁を乗り越える方法として紹介されているのが、「自分がされて嬉しかった経験があるかどうか」という判断軸を持つというもの。これまで自分がたくさんの人にされた「気づかい」のストックを思い起こすことで、他人の目を気にすることなく自分で納得した上で「だったら壁を越えてみよう」と行動に移せるはずだと川原氏は言います。そして、「これが、気づかいの最初の一歩」(同書より)なのだそうです。逆に、世間的にやるのがよいとされるビジネスマナーでも、自分がされて嬉しくないのであればやらなくてもよし。この理論は明快で、誰もが腹に落ちやすいのではないでしょうか。
ほかにも、ビジネスパーソンであれば身につけておきたい気づかいスキルが同書には満載。「『すみません』と言いそうになったら『ありがとう』に替える」「相談に来た人に、『イス』を差し出す」「打ち合わせも会議も『終了時間』を決めておく」などは、すぐにでも取り入れやすいかと思います。上司に呼ばれて長話をするときに、「そこのイス、座りなよ」とイスを勧められたら、嫌な気持ちになる人はいないはず。周りの人たちからも「同じ目線の高さで話そうとする人」と良い印象に映ることでしょう。
気づかいというと社会人1年目の課題のように思われがちですが、一人前になった人にとっても「チームや職場のことを考えられるかどうか」「後輩や部下の面倒を見られるかどうか」という意味では非常に重要です。ある程度の年齢になると気づかいやマナーについて注意されることもなくなるだけに、あえて同書で学び直すのもよいかもしれません。「気づかいを続けると、人から信頼され、仕事の業績や結果にもつながります。チャンスや運は、そんな人に訪れます」(同書より)と川原氏。気づかいというスキルを身につけて、みなさんの毎日に役立ててみてはいかがでしょうか。
[文・鷺ノ宮やよい]