普段何気なく読み書きしている文章、その文章に接するとき、同時に文体についても意識しているでしょうか。



 一口に文体といっても、「です・ます体」や「だ・である体」はもちろん、「言文一致体」「作家の文体」なるものまで様々なものありますが、書籍『文体の科学』の著者・山本貴光さんは、こうした文体について考えていくうえで、二つの点に注目します。



 まず一つ目として挙げられるのは、文体の持つ物質的な側面。文章の内容のみならず、「本の大きさ、デザイン、使われている紙、ページ上の文字の配置、使われている書体やその大きさ」といった、物質的な側面である「文章のすがたかたち」にも目を向けます。



 そして二点目として、「文学に限らない多種多様な文章」について考えてみることで、文体というものを分析しようと試みます。そのため本書のなかでは、辞書や法律の文章、科学雑誌の文章等、文学以外の文体についても分析がなされていきます。



 では実際に、それぞれの文体にはどのような特徴があるのでしょうか。例えば辞書における文体は、「です・ます」や「だ・である」といった語尾を避け、体言止めで記される傾向にありますが、これは書き手の姿を消そうとしているためなのだと山本さんは述べます。



 そして、この書き手の姿を消すという点において、辞書の文体は科学の文体と共通しているのだと指摘します。



「科学では、本来、ある人間がある状況の下で観察した現象をことばで記しているはずだが、敢えて主語を示さず、主語が誰であるかを問わない形の文章を造り上げていた。こうした文体には主語を明示しないことで、特定の個人や具体的な状況を離れて、一般化できるという効果があった」



 特定の個人という視点ではなく、一般化した客観的な視点を目指すために、辞書の文体・科学の文体は共に、主語を明示しないことによって書き手の姿を消し、あたかも主観を排除した見解であるように書かれているのだというのです。



 ただ単に文章の内容だけを読み取るのではなく、その文体に意識的になってみることで見えてくるもの。そこには意外な発見があるかもしれません。