この夏から秋にかけ、10回に分けて放映された番組のタイトルがそのまま書名になっている『NHKニッポン戦後サブカルチャー史』。
 番組の方は劇作家の宮沢章夫が講師となり、若い俳優やタレントを相手に対話しながら各時代の実相や変化を探っていたが、こちらは、まず宮沢へのインタビューをもとに序章から第6章までを構成。その一方で、「サブカルチャーの履歴書1945-2014」と題した年表を巻末から掲載。編集者時代によく似たテーマを扱った経験がある私から見ても、実によくまとまった一冊となっている。
 しかし、それ以上に好感がもてるのは、ここで取りあげている数多の人物や作品群に対する宮沢の愛情が、行間からはっきりと伝わってくるからだ。アメリカでサブカルチャーが誕生した1956年に生まれた宮沢にすれば、その歴史について語ることは同時に、自分に影響を与えてきた表現物の検証であり、自分が今ある根拠を追認する行為だった。そして、宮沢より4歳年下の私もまた、宮沢の知見にふれつつ気づけば、自分のその後に影響を及ぼした別のメディアや人物をつい思いだした。
 たとえば雑誌の場合、70年代の半ばに登場した「宝島」と「ポパイ」はどちらも当時の若者に大きなインパクトを与えたが、宮沢は「宝島」について詳しく言及していた。しかし、私が語れば、どうしても「ポパイ」の方が長くなる。4歳の違いがそうさせるのかはわからないが、人それぞれに大切なサブカルチャーとの出会いがあり、それらを選択してきた過去が今の自分の一角を担っているのは間違いないだろう。
 宮沢は、サブカルチャーとは既成の文化からの「逸脱」であると説いていた。そのとおりだと私も思う。これからを生きる者たちが、権威を疑い、中心から離れ、模索し、自分たちならではの表現を求めて生じる逸脱。サブカルチャーの歴史は若い世代の必死の表現史でもある。

週刊朝日 2014年12月5日号