オーディオの前の鈴木さんと藤井さん
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壁には、レコード・ジャケット
壁には、レコード・ジャケット
ジャケ写入り、リクエスト・ファイル
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『トライ・ミー』ジェームズ・ブラウン
『トライ・ミー』ジェームズ・ブラウン
『私の声が聞こえますか』中島みゆき ※《時代》が入っている、中島みゆきのデビュー・アルバム
『私の声が聞こえますか』中島みゆき ※《時代》が入っている、中島みゆきのデビュー・アルバム

 2014年現在、世の中の音楽を聴く方法は、どんなことになっているのだろうか?

 まだCDが中心なのだろうか? CDを買っても、iPhoneなどに入れて聴くのだから、CDを聴くというイメージではないか。家で聴く場合も、CDをパソコンにリッピングして聴いた方が音はよいし、パソコンも使わないネット・オーディオという聴き方もある。人それぞれに、聴き方のスタイルがあるようになってきたのではないかと思う。
 ブルーレイの大きなデータ量を活かして、ブルーレイ・オーディオというのも出てきた。
 いや、もうパッケージ商品自体が古い、聴きたいときに聴きたい音楽をダウンロードすればよい、という人もいる。しかも、ハイレゾなどと言われるCDよりもデータ量の多い音源も増えてきた。たしかに、CDよりも気持ちのよい音がする。
 その一方、LPレコードも人気があるようだ。今の技術で、新しくマスタリングしたり、復刻、新譜(音源は古くても)が毎月出ている。一番のほめ言葉は、「アナログみたいな音」だったりする。

 わたしが音楽を聴き始めた70年代はじめのメディアは、もっぱらレコードが中心だった。ラジオという方法もあった。FMはよい音で音楽を聴くことができたし、FEN(Far East Network)極東放送網というチャンネルもあった。米軍兵士のための放送ということで、英語の番組だったが、日本の放送では聴けない、アメリカの最新ヒット曲が聴けるので、若者の間で人気だった。
 RCサクセッションの《トランジスタ・ラジオ》で歌われる、ベイ・エリアやリバプールの音楽は、このFENで聴いたのだと、わたしは思っている。

 さて、レコードであるが、大きく分けると、シングル・レコードとLPレコードというのがあった。
 シングル・レコードというのは、17cmの丸い板に、A面とB面があり、各1曲ずつ入っている。真ん中の穴が大きいモノが多かったので、ドーナツ盤などとも言った。基本的に、お気に入りのヒット曲を買うというものだ。
 LPレコードというのはLongPlayの略で、長い時間、収録ができるレコードだ。30センチLPとも言った。やはりA面とB面があって、長いものだと片面30分近く収録できる。ま、あまり長い時間、無理やり入れると、音が悪くなるといわれていた。
 ほかにも、SPレコードやソノシートなどというのもあったが、流通の中心は、シングル・レコードとLPレコードといっていいだろう。

 ラジオなどで、今週のベスト・ヒット10などといって、その週のレコードの売り上げやリクエストの数などを元に、その順位を発表し、曲をかけるというのが流行っていた。そして、それらを聴いて、自分の気に入った曲のシングル盤を買うわけだ。
 一方、LPレコードは、好きなアーティストの音楽にどっぷりつかりたい人のためのレコードといえばよいだろうか。といっても、ヒット曲を中心に他のアーティストのカバー曲で埋めて、1枚のLPを作った、みたいなものもあった。

 ビートルズなどは、シングルとLPを別に考えていたようだ。イギリスで発売されたレコードを見ていくとわかるのだが、シングルで出した曲は、LPには入っていない。二度買わせるのは申し訳ないと思っていたという話を聞いたことがある。初期の頃から、LPを一つの世界という考えもあったのだろうか。

 わたしはというと、LP派であった。ヒット曲が気に入った場合でも、そのミュージシャンの曲をもっと聴きたくなってしまうのだ。だから、シングル盤というのは、LPに入っていない曲か、LPとは演奏が違うモノを買うことになる。
 たとえば、ビートルズの《レット・イット・ビー》や《ゲットバック》などを持っていたが、LPのプロデュースは、ロネッツの《ビー・マイ・ベイビー》などで知られるフィル・スペクター、シングル盤は、ビートルズのデビューからプロデュースしているジョージ・マーティンの作品であるためだ。曲は同じでも、演奏が違うのだ。これは、LPとシングルの両方を聴きたくなる。
 
 さて、どうしてこんな話になったかというと、今回ご紹介する銀座のソウル・バー「トライ・ミー」で、久しぶりにたくさんのシングル盤を聴かせていただいたからだ。

 このお店、銀座8丁目にあるカウンター8席のお店なのだが、そのカウンターに座ると、目の前に、アルテックA7というオーディオ好きにはたまらない大きなスピーカーが迎えてくれるのだ。
 ここのオーディオ・セットをかんたんに紹介しておこう。

 プレーヤーは、ガラード401、カートリッジはオルトフォンSPU、アームもオルトフォン。アンプは、マランツ。コントロール・アンプが3300、パワー・アンプが250だ。
 アナログ・レコード全盛期の名器の組み合わせと言ってよいだろう。
 オーディオ・ファンでなければ、こんな型番を聞かされても楽しくないかも知れないが、オーディオはこだわるほど楽しいことは、わかっていただけると思う。そう、こだわっているお店なのだ。

 店名のソウル・バー「トライ・ミー」は、ジェームズ・ブラウンの2枚目のアルバム・タイトルであり、2枚目のシングル《トライ・ミー》から取られている。

 このソウル・バー「トライ・ミー」には、お酒担当の鈴木賀惠さんと音楽担当の藤井忠司さんのお二人がいる。 ここのお店のオーディオやレコードなどは、藤井さんが自分で使っていたものを持ってきたのだという。

 藤井さんは、1950年生まれ。中学2年のときに、ラジオ番組の「9500万人のポピュラーリクエスト」で、ジェームズ・ブラウンと出会う。DJは小島正雄、当時はパーソナリティーとよばれていた。
 それからソウル・ミュージックの虜になり、アメリカン・ポップス、グループ・サウンズ、サザン系ロック、ジャズへと音楽の興味は広がって行き、昭和歌謡も聴く。上田正樹やゴールデン・カップスが大好きという。
 そこに、お酒担当の鈴木賀惠さんの好きなアイドル歌謡も加わると、このお店のラインナップが見えてくるというものだ。

 ソウル・バー「トライ・ミー」の基本は、アナログ・レコードだ。シングルかLPで音楽を聴くのが基本だ。
 リクエスト用の分厚いファイルが何冊かあり、そこから自分の聴きたい曲をリクエストする仕組みだ。探すのが面倒な人は、曲名を言ってしまっても問題ない。お店にあれば、かけてくれる。
 ジャズ喫茶でリクエストをすると、基本的に、LPレコードの片面、なにも言わなければ、A面をかけてくれるが、ここは基本1曲だ。だから、シングル・レコードが中心となる。
 
 ところで、ソウル・バーといっているが、ここで聴くことができる音楽は幅広い。といっても、80年代までが中心だ。
 興味深いデータをいただいた。
 お店の5周年で、お客様にアンケートをしたという。このお店にあるレコードの中から、邦楽で好きな曲を選んでもらったというのだ。
 わたしとしては、どうしてソウルではなく邦楽なんだ? という疑問もあるのだが(笑)

 お客様41人に50曲を選んでもらった結果を紹介しよう。あ、採点の方法など、細かいことを気にする人は、お店でお二人から聴いてください。
 
 まずは、お客様の分析。平均年齢49歳。一番若い人26歳から、一番大人の方74歳。50代が41人中20人。わたしなども、ここに入るわけだ。

 では、ベスト5。いや、次点で6位から、《化石の荒野》しばたはつみ。う~ん、このお店、特有の感じがする。

5位、《石狩挽歌》北原ミレイ
4位、《つぐない》テレサ・テン
3位、《ブルーライト・ヨコハマ》いしだあゆみ
2位、《なごり雪》いるか

そして、

1位、《時代》中島みゆき

 アルテックのでっかいスピーカーで、中島みゆきの《時代》を聴くのは、たしかに、なかなかよいものだ。

「~音楽の聴ける店へ行こう~」のパートナー、オーディオ・ショップSOUNDCREATE Legato店長、竹田響子さんが、オーディオ・ショップを閉めた後に合流した。

 竹田さん曰く、
「歌謡曲とかヒット・ナンバーもかけてくれるところが、楽しい!
 今は昔に比べると、一世を風靡するような歌謡曲はあまりないですが(最近ならアナ雪くらい?)、「トライ・ミー」でかけてくれる音楽は、皆が聴いていたようなものが多いので、育った環境が違う知らないもの同士でも藤井さんがかけてくれる流行歌を共有できる。
 お店の中では、それぞれの思い出話に花を咲かせたり、ドアを出れば、また知らないもの同士……そういう面白さがありますね!
 そういうところ銀座ならではの感じもするな~」 

 わたしは、若い頃には興味がなかった、テレサ・テンの曲を聴きながら、いいな、と思ってしまう自分に驚いている。あの頃の思い出と、体型も含め、だいぶ変わった今の自分に、音楽は会わせてくれる。[次回10/29(水)更新予定]

■銀座のソウル・バー「トライ・ミー」
http://www.try-me.jp/index.html