『ジャズ来るべきもの』オーネット・コールマン
『ジャズ来るべきもの』オーネット・コールマン
『ヨーロピアン・コンサート』モダン・ジャズ・カルテット
『ヨーロピアン・コンサート』モダン・ジャズ・カルテット
『マイ・フェイヴァリット・シングス』ジョン・コルトレーン
『マイ・フェイヴァリット・シングス』ジョン・コルトレーン
『溢れ出る涙』ローランド・カーク
『溢れ出る涙』ローランド・カーク
『直立猿人』チャールス・ミンガス
『直立猿人』チャールス・ミンガス
『リー・コニッツ・ウィズ・ウォーン・マーシュ』リー・コニッツ
『リー・コニッツ・ウィズ・ウォーン・マーシュ』リー・コニッツ

 アトランティック・レーベルは設立年代こそ1947年と古いが、当初はアレサ・フランクリンやオーティス・レディングといった大物スターを抱えるR&Bレーベルで、ジャズ部門が出来たのは1955年。つまり、ブルーノートやプレスティッジといったジャズ専門レーベルよりは後発。と言うことは、1950年代ハードバップ黄金時代のスター・プレイヤー、マイルス・デイヴィスやソニー・ロリンズ、そしてアート・ブレイキーなどの千両役者は既に先発レーベルに押さえられていた。

 しかしこの、後発ゆえの制約こそがアトランティックの特色となったのだから面白い。つまり、50年代後半から60年代にかけてのジャズシーン転換期に、既存のスターに頼らず機動的に対処できたのだ。一番わかりやすい例は、驚異の新人オーネット・コールマンの話題作『ジャズ来るべきもの』を録音し、賛否両論の嵐を巻き起こすなど、ジャズ新時代を象徴するレーベル足りえたのである。

 このオーネットをアトランティックに紹介したのがジョン・ルイスで、彼は自ら音楽監督を務める「モダン・ジャズ・カルテット」の膨大な作品群をアトランティックに吹き込んでおり、そのこともあって一般的なレーベル・イメージはけっこうオーソドックス。彼らの代表作『ヨーロピアン・コンサート』や『フォンテッサ』といった作品は、ジャズ入門者にもわかりやすく、かつ演奏の質も高い。

 もちろん、ジョン・ルイス自身のリーダー作も吹き込んでおり『ジョン・ルイス・ピアノ』などは渋い傑作。かと思うと、マイルス・バンドから独立したジョン・コルトレーンを引き抜くなど、60年代シーンの中心人物は確実に押さえている。もちろんコルトレーンの話題作『ジャイアント・ステップス』はアトランティックの看板アルバム。加えてコルトレーンの代名詞とも言うべき《マイ・フェイヴァリット・シングス》の初吹き込み盤である『マイ・フェイヴァリット・シングス』まであるのだから、鬼に金棒。

 つまり、M.J.Q.がらみの正統路線でオーソドックスな層を押さえつつ、ジャズ変革期60年代の最重要人物、オーネットとコルトレーンを押さえるあたり、まさに後発ゆえの機動力を発揮した経営戦略と言えるだろう。つまりバランスがいいのだ。加えてちょっと異色のミュージシャンたち、たとえばローランド・カークの傑作『溢れ出る涙』とか、こちらは大物、チャールス・ミンガスの『直立猿人』といった硬派ジャズもちゃんと揃っているあたり、さすがという感じ。

 また、1940年代末にトリスターノ楽派の長として“クール・ジャズ”でシーンに新風を吹き込んだレニー・トリスターノの代表作『レニー・トリスターノ』や彼の高弟たち、リー・コニッツの『インサイド・ハイファイ』やら『リー・コニッツ・ウィズ・ウォーン・マーシュ』といったマニア好みの秀作も、このレーベルを格調高いものとしている。

 ともあれ、新風、異色、60年代シーンといった切り口でジャズを聴こうと思ったら、アトランティックは絶対に外せないレーベルだ。[次回11/10(月)更新予定]