2011年あたりを境にして、日本だけではなく世界中が驚くべきスピードで変化しはじめた。あまりに多くの地域と分野が同時に変化しつつあるため、それぞれの変化の激烈さにも慣れてしまい、感覚が鈍化しはじめているようだ。個人も国家も思慮に欠け、予測が立っていないような手荒なことを、いとも簡単に行ってしまうことが普通になりつつあるような気がするのだ。

 言うまでもなく11年は日本人のエネルギー観を根底から変えた東日本大震災の年だ。民主党が壊滅し、12年末の第2次安倍政権発足からアベノミクスが始まった。13年9月には20年東京オリンピックの開催が決定。14年になってからは青天の霹靂のごとく、建設や運送、小売や外食などでの極端な人手不足が顕在化した。10月にはいよいよリニア新幹線が着工される。これから日本は過去に例のない労働力不足のなかで、大建設時代を迎えることになるのだ。

 世界的にも11年1月にはチュニジアでジャスミン革命が起こった。長期独裁政権から民主化への大変化「アラブの春」だ。それ以来、エジプトやリビアなどに飛び火しながら、ついにはシリア内戦、パレスチナ紛争の拡大、イラクの分裂をも引き起こす。この年には金正日が死亡し、翌年の12年には習近平とプーチンと朴槿恵が実権を握りはじめた。その結果、仮想敵と同盟関係が錯綜し、極東では緊張が高まりつつある。たった2年前に始まったことなのだ。

 科学の分野でも、12年には京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞の研究でノーベル生理学・医学賞を受賞、ジュネーブでは神の粒子「ヒッグス粒子」の存在が確定されている。サイエンスの出来事で喩えるならば、人類社会にとって恐竜絶滅とカンブリア大爆発が同時にやってきたような時代に差し掛かっているのかもしれないのだ。

 現代の生物学において、強い生物が生き残るという証拠はないと言われている。一方で、変化に対応できた生物が生き残るということだけは証明されている。個人や企業を生物に喩えるならば、いまこそどこで、何が、どのように変化をしているのかを知らなければならないはずだ。

 本書はこの現実認識を踏まえて、就活生や投資家に向けて書かれたものだ。市場変化に対応できなかった三洋電機やソニーのパソコン部門などに投資したり、就職してはならない。人手不足に気づかずに人件費圧縮に明け暮れた「すき家」でアルバイトするのは無謀というものだ。逆に市場や労働需給の変化を先取りした企業は少なくとも生き残ることができるであろう。そこが狙い目なのだ。

 東京に住んでいては気づかない大変化もある。本書の第2章では新四大工業地帯に立地する企業を紹介している。これまで日本の工業地帯といえば京浜、中京、阪神、北九州の四つだった。しかし、これから発展するのは関東内陸、東北、日本海沿岸と北九州の四つだと思われるのだ。物流や国際関係などの外部要因の変化で、工業立地も変化しつつあるのだ。

 さらに東京からは見えない大変化がイオンモールなどに代表される地方の大商業施設で起こっている。総合スーパー(GMS)と大型専門店、シネコンなどのエンターテインメント施設まで併設して、地方において唯一無二の存在になりつつあるのだ。九州では超巨大スーパーも発生した。東京人に知られざるナショナルブランドが登場しつつあるのだ。第5章ではそれらを紹介している。

 一方で、超長期間にわたって変化に対応してきた企業群もある。いわゆる長寿企業だ。日本は世界でもっとも多くの長寿企業が生き残ってきた国だ。100年企業だけでも2万社を超え、7世紀に法隆寺を建造した金剛組というゼネコンすら生き残っている。彼らが生き残ってきた秘密こそが変化への対応である。長寿企業の仕事を知ることに損はないはずだ。

 変化しているのは日本だけでない。世界も変化しているのだ。その世界に挑戦し、特定の分野で独占的ともいえるシェアを獲得している企業群もある。彼らこそは変化をもたらす要因を作っている匠と言っても過言ではないだろう。その企業群を総称してグローバルニッチトップとして第4章で紹介した。

 とはいえ、投資指南書や就活会社案内を書いたつもりではない。この本を読んでこれから起こる変化を体感してほしいのである。もちろん、これから起こる変化とその原因などについて丁寧に解説する本も必要だ。池上彰さんがそのような本を書かれたら、是非とも読んでみたい。

 しかし、本書のように企業事例を体感することで、むしろ全体像を感覚的に掴まえてもらう必要もあると思ったのだ。本書も版を重ねて改訂変化したいものである。

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