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 ドラァグクイーンとしてデビューし、テレビなどで活躍中のミッツ・マングローブさんの本誌連載「アイドルを性(さが)せ」。今回は、「女性文化人」について。

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 ワイドショーなどのコメンテーターとして知られる女性文化人が、連日ネットや週刊誌に取り上げられています。いろいろと報じられている彼女の素性や言動については、私も読んだり聞いたりでしか知らないため、先頃逮捕された旦那様のことも含め、ここで文字にするつもりはありませんが、一連の「書かれ方」を見る限り、とにかくメディアも世間も「金持ち憎し」なのだということがよく分かります。

 超一流大学を卒業した才女。元官僚の起業家と結婚。子供もいる。さらには美人。この時点で、メディアや世間が食いつく要素は揃っています。もちろん、そういった大衆の幻想に応えるだけのアウトプット能力があったからこそ、彼女は「売れた」わけであり、フォロワーもアンチもひっくるめて、彼女と世間の関係性は間違いなく「win‐win」だったと言えるでしょう。とてもアイドル的な存在のし方です。

 しかし、このような「勝ち組」が何かに足を掬われることもまた、世間は大好きです。むしろそれを「今か今か」と手ぐすね引いて待っている状況の中、「高学歴・高収入・既婚・子持ち・美形の40代女性」という、まさに男にとっても女にとっても嫉みの対象としては恰好の物件である人物が、ましてや「夫の不祥事」で躓く。みんな面白くて仕方ないのだと思います。

 個人的には、彼女のような食えない女性が幅を利かせている世の中の方が、見ていて断然ワクワクするのですが、どうやら世間の多くは違うようです。似たようなことが起きる度に、私はいつも世間に幻滅します。

 そして、なんでも彼女は「セレブ」だそうです。昔で言うところの「金持ち」。今回もそんな彼女の金持ちぶりを、あれこれと書き立てている記事を目にしました。今も昔も金持ちを批判する言葉や文章というのは、実に貧相です。金持ちに対するイメージや語彙が一貫して紋切り型。「都内一等地のタワマンに住み、昼間からシャンパンを飲み、海外ブランドの服に身を包み、高級外車を乗り回す」。ここに「子供を有名私立の学校に通わせる」と「別荘を所有する」を加えれば、だいたいの金持ち描写は完成します。中でも「高級外車を乗り回す」という言い回しは、「金持ち=敵・悪」を表現する際に必ずと言っていいほど目にします。まだ自家用車の普及率が低かった昭和20年代ぐらいからずっと使い古されてきたであろう、独特な貧しさに溢れるフレーズです。

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