「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」では、国や文化によって異なる多様な“弔いの作法”も描かれる
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」では、国や文化によって異なる多様な“弔いの作法”も描かれる

 那美が社長を務める会社は「エンジェルハース」といいますが、たとえば絶縁していた親子に、親は知る由もなかった子どもたちの生きた軌跡や想い、つまり“魂”みたいなものを運ぶ存在なのかなとも感じています。

──那美は気が強く、同時に仲間たちに「泣くな」と言いながら誰よりも先に泣いてしまう、情に厚い人物として描かれる。モデルとなった国際霊柩送還士の女性は、撮影現場に何度も足を運んでくれた。

米倉:ご本人を前にして感じたのは、「体ごと一生懸命で素直な方」ということでした。他の人では気づかないことにまで目が届き、人一倍、一生懸命な方。いい意味で“お節介”と言えるのかもしれません。「自分がやってあげたい」という気持ちが強く、時間を無駄にせず、1日24時間のところ、30時間分くらい生きている方だと思います。

 現場では、ずっとアンテナを張られている姿が印象的でした。それは、すべてうまくいってほしいからなのだと思います。ときにピリピリした様子が見えることもありましたが、私はそれがすごくよくわかるんです。私も集中しているだけなのに、「怒っている?」と聞かれることがよくあって。「え、楽しんでいるけれど?」と(笑)。背中にまで意識を張り巡らせていると、なぜか怒っているように見えることがあるんですね。そうしたところは共通しているのかな、と思います。

■自分が楽しく演じたい

──新聞記者に、国際霊柩送還士。これまでも、専門的なスキルを持つ女性たちを演じるにあたり、取材を重ねてきた。

米倉:人それぞれ大切にしている考えや思想があるので、その方々を少しでも理解することによって、自分の役柄に対するイメージにとどまることなく、エッセンスをすくい取れるかもしれないと思うからです。彼らの人生を少しでも再現できる方が演じていて楽しいですし、根底には「自分が楽しく演じたいから」という気持ちがあります。プロから教えてもらった方が確実で、掴むのも早いですしね。

 私は幼い頃から学校で成績が良いタイプではなかったけれど、この仕事の醍醐味はたくさんの職業の方とお会いできることだな、と改めて感じています。一つ一つの仕事を深いところまで知ることはできないけれど、その人たちがどんな世界でどんなふうに生きているのかを足先だけでも触れることができる。その世界にしっかりと足を踏み入れるところまではできていませんが、コミュニケーションを取ることで引き出せることがあるかもしれないですし、実際に仕事をしている方から「これだけは伝えておきたい」という気持ちを受け取ることもあるかもしれない。

■脚本を超える演技を

──「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」の脚本を初めて読んだ時は、気づけば泣いていたという。

米倉:一視聴者のように、毎回泣いていました。その度に「これ以上、何ができるだろう、この脚本を超えられるように自分が演じなければいけない」と強く感じていました。

「ご遺体を扱う仕事」と聞くと、「誰もやりたくない仕事をしている」と思われる方もいるかもしれませんが、色々な方の人生、そして命の尊さを感じるドラマだなと思います。

 決して泣かせるドラマではないけれど、生きるってどんなに儚くて尊いものなのか。いま、こうして息をしている間にも、どこかで何かが起こっていて、様々なストーリーが交差している。「生きるとは何か」ということを、私たちは感じながら芝居をしているので、この仕事をしていなければ、私自身もっと簡単に生きていたかもしれない、と感じています。

(構成/ライター・古谷ゆう子)

AERA 2023年3月20日号

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